身代わりとして隣国の王弟殿下に嫁いだら、即バレしたのに処刑どころか溺愛されています
あと一歩ってところで、突然鳴り響いたクラクション。たぶん、猫が視界に入った運転手が、牽制するために鳴らしたのだろう。

けれど、それは逆効果だった。驚いた猫は、思わずという感じで車道に飛び出してしまった。

猫はきっと、一旦止まって引き返すはず。だから轢かれてしまいやすいんだって、田舎の祖母が言ってた。きっと、この白猫ちゃんも……

悲惨な場面を想像したら、躊躇する暇なんてなかった。無意識のうちに駆け出し、必死で手を伸ばす。
途端に飛び込んでくる長いクラクションは、もう間に合わないことを告げる鐘のようであり、悲鳴のようでもあった。


案の定、驚いて引き返そうとする猫。それをなんとか自分の腕の中に抱え込んだ。
けれど、気付いた時にはもう逃げても間に合わないところまで、車が近付いていた。


ドンっという鈍い音と、体に受けた息が詰まるほどの衝撃。そこまでは確実に覚えている。


それから……
なんとなく不安定な揺れは、おそらく担架に乗せられたのだろう。少し前に、救急車のサイレンが聞こえた気がするし。

私はこのまま、死ぬのだろうか……




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