身代わりとして隣国の王弟殿下に嫁いだら、即バレしたのに処刑どころか溺愛されています
何か一つのことに全てをかけて向き合う気持ちは、私にだって少しはわかる。わずか数年のことかもしれないけれど、私だって声楽に全てをかけてきたから。
だからこそ、こんなふうに彼のことを軽んじるべきじゃなかった。


「悪かったな」

「え?」

俯く私にかけられた一言は、意外なものだった。謝るのは私の方だし。
チラリと視線を向けると、私から体を離したエドワードは、若干決まり悪そうな顔をしている。

「はじめてだったんだろ?」

ハジメテ……そうつぶやいて、自分の唇にそっと触れる。

確かに、私にとってさっきのがファーストキスだった。けれど、訳の分からない世界に飛ばされて、王女様の身代わりにされてって、キャパオーバーなことだらけで、ファーストキスを奪われたぐらい、大したことに思えなかった。


「そうですけど……ありえないこと続きだったから、今さらそれが一つぐらい増えても……」

「それでも、サヤカは涙を流している」



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