今さら本物の聖女といわれてももう遅い!妹に全てを奪われたので、隣国で自由に生きます

化かされたのはどちら?

ミレーヌの怯えたその様子に王太子が忌々しそうな顔をする。いや、あなたに怒る権利があるとでも?今まで散々私のことを蔑ろにして馬鹿にしてきたくせに、この期に及んでそんな強気な態度を取れる王太子の頭に拍手喝采だ。

私はにこりと微笑んだ。淑女らしい、淑やかな微笑みに映ったはずだ。思えば、殿下の前で微笑んだことなどなかった。いつも私はおびえていて、殿下の顔色を伺っていて。

ああ、本当馬鹿らしいったらない。こんなのに今までの十六年間を捧げていたなんて。

我ながら理解に苦しむわ。この男に私の十六年を返せと言いたい。いや、言うべきは私の両親かしら。

「ミレーヌは当事者だ。仲間はずれはやめろ」

仲間はずれって。子供か。だいたい発言が幼稚なのだ。私はもはや呆れて扇で顔を隠した。

「おかしいですわね。今日のこの場は、私と殿下の婚約について話し合うために誂えられたと聞きましたのに。これじゃあ私、婚約者を取られたみたいだわ」

わざとらしくそう言えば、ミレーヌが小さく悲鳴をあげる。『みたい』も何も、言葉のとおり取られたのだが。今になって婚約者がいる男と恋仲になった事実に気づいたでも言うのか。この脳内花畑の女は。

王太子は憎々しげに私を見ている。まるで親の仇でも見るような顔だが、本来であればその顔をするのは私の方である。扇をぶん投げられないだけありがたいと思って欲しいわ。
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