元書店員ですが、転生したら貴族令嬢になっていました!
9.猛勉強して貴族令嬢(風)になってやります!
朝一番にティナさんがやってきて、ドレスの着付けを手伝ってくれたのだが、どのドレスも「そんなにフリルいりますか?」ってくらいフリルがついていたので閉口した。その中でも一番フリルの少ないシンプルなピンクのドレスを着せてもらった。アラサーの私にはピンクってちょっと躊躇って出来たら避けたい色だけど、アリアナは18歳だからと自分を納得させた。鏡を見ると確かにアリアナには似合ってた。私に、ではなく、アリアナには。
朝食は、なんちゃらスクワッシュ(自動翻訳でちゃんと訳されたけどその野菜を知らないという悲劇)のスープに厚めのハムを焼いたもの、にんじんとなんかの葉っぱのサラダ、ライ麦のパン。と日頃の朝食よりは格段に豪華ではあったのだが、味つけが全部塩のみで素材の味が強調されていた。地球に優しい素材の味のみを生かした食事。うん、ここ地球かどうかわかりませんけどね!
☆☆☆
淑女のマナー講座を教えてくれる先生は、イリーナという背筋のピンと伸びたひっつめ髪の未亡人であった。イリーナには私が記憶喪失という設定にしてあるらしく、一から教えてほしいという旨でお願いしたという。
ギスギスに痩せたこのご婦人は、想像通りにビシバシ教えてくださる。ただ自動翻訳機能の訳し方が絶妙で、
「淑女がそんな風に座ったらダメざます!」
「紳士の腕にのせるのは3本の指だけざます!」
「挨拶するときの角度はそんなんじゃ足りないざます!」
と、まさかのざます攻撃だったので、時々笑いのツボに入ると、内容が頭に入ってこなくて非常に困った。イリーナには午前中みっちりしごかれ、勿論明日から毎日ざますよ!ちゃんと復習しておくんざます!と最後までざます口調は直らなかった。これはもうずっと、ざます!地獄なんですね、きっと。
次にこの国についての基礎知識を教えてくださる先生がいらしたのだが、こちらはザ・先生という感じの中年のおっとりした恰幅のいい男性であった。先生の名前はジェイミー。いたなぁこういう世間を知らなそうな、研究畑のみで生きてきたような教授……。
「いいですかぁ、我が国の爵位制度はぁ、5爵といいましてぇ、公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵の順で位が下がっていくんですよぉ」
「隣の国々とのぉ友好関係はぁ、ここ30年ほどでぇ大きな変移がありましたのでぇ、ちゃんと覚えてくださいねぇ」
メシマズランチテロを挟んでからの授業、この口調で話されると睡魔がやってきちゃって辛いです辛いですけど自分のためになるから頑張ります…。
言われたことを忘れないうちにと必死でメモを取っていたら、ジェイミー教授が興味津々で、これなんですかぁ?と仰った。そうね、これ、日本語なのよね。困ったんだけどとりあえず「自分だけの暗号にしました!今更こんな初歩的なことを勉強していると周りに知られたら恥ずかしいので!」と言ったら納得されたのがなんだか不思議。自動翻訳機能がうまいこと作用したのかしら。
☆☆☆
授業が終わり、夕食前のひと時、私はがっくりと肩を落としていた。ティナさんに慰められつつ淹れてもらった紅茶を飲んで心を落ち着けた。それから今日の復習をひとり必死でしていたら、侯爵が部屋を訪ねてきた。
「リンネ、授業はどうだったかな?」
侯爵はもう自然とリンネと私の名前を呼んでくれる。うう、彼は間違いなくいい人だ。
「はい、勿論分からないことだらけですが、なかなか楽しかったです(色んな意味で)」
昨日の『目覚めたら娘と違う娘でした』ショックも落ち着いたのか、侯爵には今日は笑顔も見られる。
「それはよかった。明日からはピアノとダンスのレッスンも入ることになった」
「おおお……」
ピアノとダンスってめっちゃ貴族令嬢っぽいですな。やることたくさんだけど、その方が忙しくて、色んな余計なことを考えなくて済む。例えば、残してきた家族や友人はどうしているかな? とか、私いつか戻れるのかな? とか。
「そういえば、我が家にはもう一人息子がいてね」
「はぁ……」
「今は王宮の騎士団にも所属しているので普段はこの家にはいないのだが、アリアナが舞踏会に行くのに合わせて戻ってきてもらってエスコートしてもらおうと思ってる」
ん?
なんか聞き捨てならないことを聞いたような。
「あの――舞踏会、とは?」
「申し訳ないんだが、我がシュワルツコフ家と関係が深いシュタイン公爵家から舞踏会のお誘いを頂いていてね。これだけは断れなくて家族全員で参加することになっているんだ、前々から。どうしても難しそうならリンネだけ行かなくてもと思ったんだが、彼らとはこれからも付き合いが続くだろうから、よければ連れていきたい」
え、そんななんかめっちゃ粗相が一切許されなさそうな大事な舞踏会に、この付け焼刃も付け焼刃、生まれたての目の見えないひよこみたいな貴族令嬢レベルの私が行くんですか?
「本当に申し訳ない――なので息子には、予定より早めに明日この家に戻ってきてもらって、リンネと引き合わせてから舞踏会に行こうと思ってね」
「ち、ちなみにいつ頃……??」
「2週間後だ」
死まで14日――
朝食は、なんちゃらスクワッシュ(自動翻訳でちゃんと訳されたけどその野菜を知らないという悲劇)のスープに厚めのハムを焼いたもの、にんじんとなんかの葉っぱのサラダ、ライ麦のパン。と日頃の朝食よりは格段に豪華ではあったのだが、味つけが全部塩のみで素材の味が強調されていた。地球に優しい素材の味のみを生かした食事。うん、ここ地球かどうかわかりませんけどね!
☆☆☆
淑女のマナー講座を教えてくれる先生は、イリーナという背筋のピンと伸びたひっつめ髪の未亡人であった。イリーナには私が記憶喪失という設定にしてあるらしく、一から教えてほしいという旨でお願いしたという。
ギスギスに痩せたこのご婦人は、想像通りにビシバシ教えてくださる。ただ自動翻訳機能の訳し方が絶妙で、
「淑女がそんな風に座ったらダメざます!」
「紳士の腕にのせるのは3本の指だけざます!」
「挨拶するときの角度はそんなんじゃ足りないざます!」
と、まさかのざます攻撃だったので、時々笑いのツボに入ると、内容が頭に入ってこなくて非常に困った。イリーナには午前中みっちりしごかれ、勿論明日から毎日ざますよ!ちゃんと復習しておくんざます!と最後までざます口調は直らなかった。これはもうずっと、ざます!地獄なんですね、きっと。
次にこの国についての基礎知識を教えてくださる先生がいらしたのだが、こちらはザ・先生という感じの中年のおっとりした恰幅のいい男性であった。先生の名前はジェイミー。いたなぁこういう世間を知らなそうな、研究畑のみで生きてきたような教授……。
「いいですかぁ、我が国の爵位制度はぁ、5爵といいましてぇ、公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵の順で位が下がっていくんですよぉ」
「隣の国々とのぉ友好関係はぁ、ここ30年ほどでぇ大きな変移がありましたのでぇ、ちゃんと覚えてくださいねぇ」
メシマズランチテロを挟んでからの授業、この口調で話されると睡魔がやってきちゃって辛いです辛いですけど自分のためになるから頑張ります…。
言われたことを忘れないうちにと必死でメモを取っていたら、ジェイミー教授が興味津々で、これなんですかぁ?と仰った。そうね、これ、日本語なのよね。困ったんだけどとりあえず「自分だけの暗号にしました!今更こんな初歩的なことを勉強していると周りに知られたら恥ずかしいので!」と言ったら納得されたのがなんだか不思議。自動翻訳機能がうまいこと作用したのかしら。
☆☆☆
授業が終わり、夕食前のひと時、私はがっくりと肩を落としていた。ティナさんに慰められつつ淹れてもらった紅茶を飲んで心を落ち着けた。それから今日の復習をひとり必死でしていたら、侯爵が部屋を訪ねてきた。
「リンネ、授業はどうだったかな?」
侯爵はもう自然とリンネと私の名前を呼んでくれる。うう、彼は間違いなくいい人だ。
「はい、勿論分からないことだらけですが、なかなか楽しかったです(色んな意味で)」
昨日の『目覚めたら娘と違う娘でした』ショックも落ち着いたのか、侯爵には今日は笑顔も見られる。
「それはよかった。明日からはピアノとダンスのレッスンも入ることになった」
「おおお……」
ピアノとダンスってめっちゃ貴族令嬢っぽいですな。やることたくさんだけど、その方が忙しくて、色んな余計なことを考えなくて済む。例えば、残してきた家族や友人はどうしているかな? とか、私いつか戻れるのかな? とか。
「そういえば、我が家にはもう一人息子がいてね」
「はぁ……」
「今は王宮の騎士団にも所属しているので普段はこの家にはいないのだが、アリアナが舞踏会に行くのに合わせて戻ってきてもらってエスコートしてもらおうと思ってる」
ん?
なんか聞き捨てならないことを聞いたような。
「あの――舞踏会、とは?」
「申し訳ないんだが、我がシュワルツコフ家と関係が深いシュタイン公爵家から舞踏会のお誘いを頂いていてね。これだけは断れなくて家族全員で参加することになっているんだ、前々から。どうしても難しそうならリンネだけ行かなくてもと思ったんだが、彼らとはこれからも付き合いが続くだろうから、よければ連れていきたい」
え、そんななんかめっちゃ粗相が一切許されなさそうな大事な舞踏会に、この付け焼刃も付け焼刃、生まれたての目の見えないひよこみたいな貴族令嬢レベルの私が行くんですか?
「本当に申し訳ない――なので息子には、予定より早めに明日この家に戻ってきてもらって、リンネと引き合わせてから舞踏会に行こうと思ってね」
「ち、ちなみにいつ頃……??」
「2週間後だ」
死まで14日――