元書店員ですが、転生したら貴族令嬢になっていました!
12.兄に気に入られました!
振り向いたら、すっかり存在を忘れていた兄がいた。
私が必死にノートを書いている間そこにずっと立ってたのかしら?
「あ、エリックさん、ちょうどいいのでエスコートされる礼儀が合ってるかチェックしてもらってもいいですか?」
「ぶは」
「ご迷惑ならいいんですけどね。折角今日勉強したから復習したくて」
しばし腹を抱えて笑っていたエリックが、ごめんごめんと謝ってきた。眦にたまった涙をふきふき、彼が続けた。
「顔はアリアナなのに、彼女が絶対しないことをして、言わないことを言うものだから可笑しくて可笑しくて……悪気はないんだけどね」
あれかな、真面目だと思っていた人が突然笑いを取りに来るようなことをするがゆえに、そのギャップで笑えるってやつかな……。どちらにせよ私は彼のことを嫌に思う気など一ミクロンもない。
「そういえば、アリアナさんはなかなか物静かな方だったと伺いました」
「そうそう、もうね、あの子は貴族令嬢らしさにこだわってたからね。プライドが高くて、物静かで、喋ってても自分の考えがなくって、全然面白くなかったなぁ」
おお、ちょいちょい毒にまみれた台詞。一応は兄妹だったというのに、なかなか手厳しいことを言うのね。
「まずね、とりあえず様つけよっか。さん、じゃなくて」
「!……それは失礼しました」
頭のメモ帳に書き込む。そうだそうだ貴族には様つけなんて当たり前でしょうね。続けてエリックは、明らかに目上の方とか会ったばかりの方には、ファミリーネームに爵位で呼ばなきゃだめだと教えてくれる。
「じゃ、エリック様」
「じゃ、って」
適当だなオイ、と再び爆笑される。しかし別に笑われても全く気にならない。そもそも精神年齢としては年下だし、私の秘密を知っていて手助けしてくれる人だし仲良くなっておくに越したことはない。何と言っても彼は育ちがいいからか毒舌でもめちゃくちゃ感じがいいから腹は一切立たない。育ちがいいって神だ。
笑い終わった兄がすっと左腕をまげて差し出してくれる。
(えーっと、右の指三本でそっとつかんでからっと……指三本でって難しいな)
頭の中で『ざます』の幻聴を呼び起こし、彼の腕をつかんだ。エリックがにっこり笑って、じゃ行こう、と食堂に向かって歩き出した。
☆☆☆
食堂は、ダンスの練習をしていた大広間のある二階から、階段で一階に降りて奥に行ったところだった。エリックは親切にもこういう時の歩き方のレクチャーや、会話の仕方をシチュエーション別に教えてくれるので、ありがとうございます、めちゃくちゃ勉強になります。
(ドアは基本召使か、男性が開けてくれるのを待つ……と)
ドアを開けて中にエスコートしてくれる兄のマナー作法は完璧である。
「そういえば、扇子の使い方は知ってる?」
「……扇子……とは?」
「この国の貴族令嬢の必須アイテムだよ――よし、ちょうどいいから使い方を教えてあげる」
あれもってきて、とそこに立っているメイドにエリックが頼む。とりあえず座ろうと彼が椅子を引いてくれた場所に腰かけた。大きなダイニングテーブルの奥から二番目の、向かって左側の席である。そして私を座らせると、エリックは私の真向かいに腰かけた。
「ありがとうございます。そうそう、上座とか下座っていうのもありますか?」
「上座……?」
どうやら翻訳機能がいい仕事をしてくれなかったようだ。
「位の高い人から座る場所っていうか」
「ああ、そういうことね、あるある。普通奥から、家長とかその場で一番爵位が高い人が座って……」
せっかく教えてもらってるのだが、ノートがない。しまった、と思ったが後の祭りである。一言も漏らすまいと真剣に話を聞く。仕方ない。後でノートを取りに行って書き足そう。
「エリック様、扇子をお持ち致しました」
先ほどのメイドがうやうやしく扇子を持って登場する。
「それ、彼女に渡して」
私が必死にノートを書いている間そこにずっと立ってたのかしら?
「あ、エリックさん、ちょうどいいのでエスコートされる礼儀が合ってるかチェックしてもらってもいいですか?」
「ぶは」
「ご迷惑ならいいんですけどね。折角今日勉強したから復習したくて」
しばし腹を抱えて笑っていたエリックが、ごめんごめんと謝ってきた。眦にたまった涙をふきふき、彼が続けた。
「顔はアリアナなのに、彼女が絶対しないことをして、言わないことを言うものだから可笑しくて可笑しくて……悪気はないんだけどね」
あれかな、真面目だと思っていた人が突然笑いを取りに来るようなことをするがゆえに、そのギャップで笑えるってやつかな……。どちらにせよ私は彼のことを嫌に思う気など一ミクロンもない。
「そういえば、アリアナさんはなかなか物静かな方だったと伺いました」
「そうそう、もうね、あの子は貴族令嬢らしさにこだわってたからね。プライドが高くて、物静かで、喋ってても自分の考えがなくって、全然面白くなかったなぁ」
おお、ちょいちょい毒にまみれた台詞。一応は兄妹だったというのに、なかなか手厳しいことを言うのね。
「まずね、とりあえず様つけよっか。さん、じゃなくて」
「!……それは失礼しました」
頭のメモ帳に書き込む。そうだそうだ貴族には様つけなんて当たり前でしょうね。続けてエリックは、明らかに目上の方とか会ったばかりの方には、ファミリーネームに爵位で呼ばなきゃだめだと教えてくれる。
「じゃ、エリック様」
「じゃ、って」
適当だなオイ、と再び爆笑される。しかし別に笑われても全く気にならない。そもそも精神年齢としては年下だし、私の秘密を知っていて手助けしてくれる人だし仲良くなっておくに越したことはない。何と言っても彼は育ちがいいからか毒舌でもめちゃくちゃ感じがいいから腹は一切立たない。育ちがいいって神だ。
笑い終わった兄がすっと左腕をまげて差し出してくれる。
(えーっと、右の指三本でそっとつかんでからっと……指三本でって難しいな)
頭の中で『ざます』の幻聴を呼び起こし、彼の腕をつかんだ。エリックがにっこり笑って、じゃ行こう、と食堂に向かって歩き出した。
☆☆☆
食堂は、ダンスの練習をしていた大広間のある二階から、階段で一階に降りて奥に行ったところだった。エリックは親切にもこういう時の歩き方のレクチャーや、会話の仕方をシチュエーション別に教えてくれるので、ありがとうございます、めちゃくちゃ勉強になります。
(ドアは基本召使か、男性が開けてくれるのを待つ……と)
ドアを開けて中にエスコートしてくれる兄のマナー作法は完璧である。
「そういえば、扇子の使い方は知ってる?」
「……扇子……とは?」
「この国の貴族令嬢の必須アイテムだよ――よし、ちょうどいいから使い方を教えてあげる」
あれもってきて、とそこに立っているメイドにエリックが頼む。とりあえず座ろうと彼が椅子を引いてくれた場所に腰かけた。大きなダイニングテーブルの奥から二番目の、向かって左側の席である。そして私を座らせると、エリックは私の真向かいに腰かけた。
「ありがとうございます。そうそう、上座とか下座っていうのもありますか?」
「上座……?」
どうやら翻訳機能がいい仕事をしてくれなかったようだ。
「位の高い人から座る場所っていうか」
「ああ、そういうことね、あるある。普通奥から、家長とかその場で一番爵位が高い人が座って……」
せっかく教えてもらってるのだが、ノートがない。しまった、と思ったが後の祭りである。一言も漏らすまいと真剣に話を聞く。仕方ない。後でノートを取りに行って書き足そう。
「エリック様、扇子をお持ち致しました」
先ほどのメイドがうやうやしく扇子を持って登場する。
「それ、彼女に渡して」