元書店員ですが、転生したら貴族令嬢になっていました!

16.いざ出陣です!

 朝食を終えて部屋に戻ると、ティナさんとメイドたちが、びっくりするくらいのフリルがついたエメラルドグリーンのドレスとコルセットを抱えて部屋に入ってきた。

「リンネ様、今日はこれを着ていただきますので!」

 うん……分かってる……覚悟しているよ……。

 それからの時間はただただ拷問だった。
 親の仇くらいの勢いでコルセットをきつく締められ、やれ、ガーターソックスだ、やれスカートの形を整えるためのパニエだ、と他にもたくさん着つけされ、最後にアリアナの瞳と同じエメラルドグリーンの、ふりっふりのドレスを着せられる。つるっつるの白い手袋をはめられ、ネックレスは侯爵が用意してくれたエメラルドですって……。値段は気にしないことにする。

 髪の毛は今流行っているという洒落たまとめ髪風に結われ、お化粧も『肌の呼吸できてますか』ってくらい白粉を塗られ、チークをされ、ピンクの口紅を差される。ハンカチをドレスにこっそり作られているポケットらしきものに仕舞って、完成。

 やっと終わった……。ティナさんはじめ、メイドの皆さんが口々にアリアナの出来上がりを綺麗だと褒めてくださる。勿論、アリアナのことだから美人に仕上がったんでしょうね。でもそれは本当の私ではないので……。
 私にとってその言葉は何の意味もない。

 準備している間中、私はこの二週間で必死に覚えた礼儀作法を出来るだけミスなしでこなすことばかりを考えていた。それが優しくしてくれた侯爵家の人々への恩返しだと思っているからである。

 階段を下りていくと、侯爵と兄が階下の玄関ホールで待っていてくれた。2人とも美貌を生かしたダンディーな装いだ。使用人たちに見送られ、侯爵と兄にエスコートされながら馬車に乗り込みドアを閉めると、ようやく少しだけ息をつけた。馬車が走り出す。本当にいよいよここからが本番だ。

「リンネ、顔色があまりよくない。大丈夫かい?」

 向かい側に座った侯爵が思慮深い瞳を少し曇らせながら尋ねてきた。

「はい……、出来る限り粗相のないように、と思ってます」

「大丈夫だよ。俺がずっと傍にいるから」

「頼んだぞエリック。私はどうしても立場上いろいろな人と歓談しないといけないからな」

 私は頷き、それから深呼吸した。どうにかして、この優しい人たちに迷惑をかけないようにしないと。外は夕暮れになりつつある。馬車についている小さな窓から外を見ながら、ノートの一ページ目から思い返し始めた。
< 20 / 68 >

この作品をシェア

pagetop