元書店員ですが、転生したら貴族令嬢になっていました!
18.まさか推しに会えるなんて!
滑らかに響くバリトンボイスの持ち主に視線を送ると、私の息が自然と止まった。
(嘘!?)
180センチ近くのがっしりした体型に、濃い茶色の髪の毛、漆黒のような黒い瞳、優美だけれども男性らしさを失っていないそれでいて端正な顔立ち。
しかし私が驚いたのは彼が整った容貌の持ち主だったからではない。
(ケイン伯爵にそっくり!)
そう、この男性は私が大好きなBLのケイン伯爵シリーズの主役のケイン伯爵の挿絵にそっくりだった。瓜二つというくらい本当に似ている。
(身長もこんなイメージで……。しかもね、受ってところがニッチなのよね)
私は何を隠そうガチムチ受けが大好物なのである。あ、こんなところで私の性癖を突然聞いて、気分を害されたらすみません。しかし待望の第五巻を読めずにこちらの世界に来てしまったのだけど、ここでまさかのリアルケイン伯爵を拝むことができるとは…。
「ヴィクター!」
エリックが心底嬉しそうに、ケイン伯爵……じゃなかった、ヴィクターに寄って、がしっと握手を交わしている。ああこれが次男のヴィクトルね。アリアナとまともに話したこともないという。私には興味がないだろう、少しは気を抜いても大丈夫かな。楽しそうに喋り始める彼らから意識を外して、私は会場内を眺める。イケメン2人が揃ったから会場中の令嬢たちの視線がビシバシこっち向いているー。ちょっとでもいいから横にずれて視線から逃れたい―――
「リ……、アリアナ!」
(あ、兄が間違えてどうする!)
「なんでしょう? お兄様」
出来る限り、練習したアリアナらしい氷の微笑を浮かべて、兄を見やるとヴィクトルが目を見張るのがわかった。
「ちょっとヴィクターと待っててくれ、飲み物取ってくるから」
(――は???)
おいエリック、何を血迷った。飲み物取りに行くならヴィクトルも連れていけ。令嬢を一人置いておけないのは紳士の礼儀かもしれないが、この場合は連れていけ! あああああ行くなぁ!
という心の叫びもむなしく、兄は飲み物がたくさん乗っているテーブルに去っていった。私ががっくりと内心項垂れていると、意外にもヴィクトルから話しかけられる。
「意識が戻ったんだな」
どうやって返事をするのかしばし悩んだが黙っているのもおかしいだろうとしぶしぶ口を開く。
「おかげさまで」
無難だろうと思われる返事をすると、ヴィクトルが眉をひょいとあげる。
「お前がエリックといるなんて珍しいな」
「病み上がりの私を心配して、お父様がお兄様にエスコートを頼んでくださったので」
「そうだとしても――エリックがお前と一緒にいるなんて天変地異の前触れかもしれないな」
(どんだけ仲悪かったんだシュワルツコフ兄妹!!)
私の手が微かに震えだす。怖い。何をどう返事しても、失敗してしまいそうで、本当に怖い。でも会話を無視するのも礼儀に反するから何とかするしかない。
「では明日は嵐かもしれませんわね?」
覚悟を決め、私はにっこり笑って自分より二十センチは身長が高いヴィクトルを見上げた。今度こそ彼は完全に目を見開いた。
「―――それは、どういう、」
「ヴィクター、助かった!ありがとう!」
そこへエリックが戻ってきて、私に飲み物を手渡そうとしてくれたが私の手が震えていてカップを持てないことに気づくと兄はさっとヴィクトルを見た。
「君、何かアリアナに言ったのか?」
(私のこと隠す気ないのかな、エリック)
一緒にいるだけで天変地異だと思われている妹のことをこんなにかばったら、誰だって何かおかしいと思うだろう。
「別に何も言ってない」
ヴィクトルは憮然としてそう言い返したが、彼も私のまだ震えている手を見つめていた。
「ヴィクター!妹の具合が悪くなった!別室に案内してくれないか!?」
と、兄は周囲に聞かせるように、よく通る声でそう言った――――
(嘘!?)
180センチ近くのがっしりした体型に、濃い茶色の髪の毛、漆黒のような黒い瞳、優美だけれども男性らしさを失っていないそれでいて端正な顔立ち。
しかし私が驚いたのは彼が整った容貌の持ち主だったからではない。
(ケイン伯爵にそっくり!)
そう、この男性は私が大好きなBLのケイン伯爵シリーズの主役のケイン伯爵の挿絵にそっくりだった。瓜二つというくらい本当に似ている。
(身長もこんなイメージで……。しかもね、受ってところがニッチなのよね)
私は何を隠そうガチムチ受けが大好物なのである。あ、こんなところで私の性癖を突然聞いて、気分を害されたらすみません。しかし待望の第五巻を読めずにこちらの世界に来てしまったのだけど、ここでまさかのリアルケイン伯爵を拝むことができるとは…。
「ヴィクター!」
エリックが心底嬉しそうに、ケイン伯爵……じゃなかった、ヴィクターに寄って、がしっと握手を交わしている。ああこれが次男のヴィクトルね。アリアナとまともに話したこともないという。私には興味がないだろう、少しは気を抜いても大丈夫かな。楽しそうに喋り始める彼らから意識を外して、私は会場内を眺める。イケメン2人が揃ったから会場中の令嬢たちの視線がビシバシこっち向いているー。ちょっとでもいいから横にずれて視線から逃れたい―――
「リ……、アリアナ!」
(あ、兄が間違えてどうする!)
「なんでしょう? お兄様」
出来る限り、練習したアリアナらしい氷の微笑を浮かべて、兄を見やるとヴィクトルが目を見張るのがわかった。
「ちょっとヴィクターと待っててくれ、飲み物取ってくるから」
(――は???)
おいエリック、何を血迷った。飲み物取りに行くならヴィクトルも連れていけ。令嬢を一人置いておけないのは紳士の礼儀かもしれないが、この場合は連れていけ! あああああ行くなぁ!
という心の叫びもむなしく、兄は飲み物がたくさん乗っているテーブルに去っていった。私ががっくりと内心項垂れていると、意外にもヴィクトルから話しかけられる。
「意識が戻ったんだな」
どうやって返事をするのかしばし悩んだが黙っているのもおかしいだろうとしぶしぶ口を開く。
「おかげさまで」
無難だろうと思われる返事をすると、ヴィクトルが眉をひょいとあげる。
「お前がエリックといるなんて珍しいな」
「病み上がりの私を心配して、お父様がお兄様にエスコートを頼んでくださったので」
「そうだとしても――エリックがお前と一緒にいるなんて天変地異の前触れかもしれないな」
(どんだけ仲悪かったんだシュワルツコフ兄妹!!)
私の手が微かに震えだす。怖い。何をどう返事しても、失敗してしまいそうで、本当に怖い。でも会話を無視するのも礼儀に反するから何とかするしかない。
「では明日は嵐かもしれませんわね?」
覚悟を決め、私はにっこり笑って自分より二十センチは身長が高いヴィクトルを見上げた。今度こそ彼は完全に目を見開いた。
「―――それは、どういう、」
「ヴィクター、助かった!ありがとう!」
そこへエリックが戻ってきて、私に飲み物を手渡そうとしてくれたが私の手が震えていてカップを持てないことに気づくと兄はさっとヴィクトルを見た。
「君、何かアリアナに言ったのか?」
(私のこと隠す気ないのかな、エリック)
一緒にいるだけで天変地異だと思われている妹のことをこんなにかばったら、誰だって何かおかしいと思うだろう。
「別に何も言ってない」
ヴィクトルは憮然としてそう言い返したが、彼も私のまだ震えている手を見つめていた。
「ヴィクター!妹の具合が悪くなった!別室に案内してくれないか!?」
と、兄は周囲に聞かせるように、よく通る声でそう言った――――