元書店員ですが、転生したら貴族令嬢になっていました!
19.② 夜会でやらかしました!
通された部屋は、これまた豪勢な設えの応接間だった。大広間からここに来るまでにいくつものドアを通り過ぎてきた。エリックは勝手知ったる―という感じであったが、私はひとりでは大広間には戻れまい。
「きおくそうしつ?」
兄がヴィクトルに当たらずも遠からずの説明をした。記憶喪失という設定は、マナー講師のイリーナなどにもしているため、真実味がある。
「そうだ。知ってるだろう? アリアナが一ヶ月ほど寝込んでいたこと」
「ああ」
「目覚めたのは二週間前だったんだが、その時には全てを忘れていた」
私がこの国では何も知らない、何もできないまっさらな状態であることは嘘ではない。別世界からやってきた別人が乗り移って、などと言い出すよりよっぽど受け入れられやすい設定だろうし、この話であれば侯爵の言いつけに背いているということもないだろう。
「そうか」
ヴィクトルが私を見る目が少しだけ和らいだことに、ほっとする。
「そうだ、ヴィクター、ついでにちょっと仕事の話があるんだ。――アリアナ、ここで一人で待っていられるよな?」
「もちろん」
私は即座に頷く。先ほどの出来事で私の足はまだ震えているくらいだ。人目のつかないこの部屋で一息つけることは私にとってこれ以上ない提案だ。
「メイドに何か暖かい飲みものをもって来させるけど、知らない人についていったら駄目だからな?」
「はい、ちゃんとお兄様を待ってます」
なんとか笑顔を作った。ヴィクトルが私に会釈をして先に出て行った。兄は何度も振り返りながら心配そうだったが、大丈夫、と口の動きで伝えると、彼はようやく頷いて部屋を出て行った。
広い室内に私のため息が響いた。
窓辺によって外を眺めると、シュタイン公爵家の立派な庭園が見えた。侯爵家より間違いなく潤沢な資金があるであろうその庭園にはガス灯がともされ、綺麗にライトアップされている。その明かりがみるみるうちにぼやけてきてしまうのを、今だけは自分に許した。
「きおくそうしつ?」
兄がヴィクトルに当たらずも遠からずの説明をした。記憶喪失という設定は、マナー講師のイリーナなどにもしているため、真実味がある。
「そうだ。知ってるだろう? アリアナが一ヶ月ほど寝込んでいたこと」
「ああ」
「目覚めたのは二週間前だったんだが、その時には全てを忘れていた」
私がこの国では何も知らない、何もできないまっさらな状態であることは嘘ではない。別世界からやってきた別人が乗り移って、などと言い出すよりよっぽど受け入れられやすい設定だろうし、この話であれば侯爵の言いつけに背いているということもないだろう。
「そうか」
ヴィクトルが私を見る目が少しだけ和らいだことに、ほっとする。
「そうだ、ヴィクター、ついでにちょっと仕事の話があるんだ。――アリアナ、ここで一人で待っていられるよな?」
「もちろん」
私は即座に頷く。先ほどの出来事で私の足はまだ震えているくらいだ。人目のつかないこの部屋で一息つけることは私にとってこれ以上ない提案だ。
「メイドに何か暖かい飲みものをもって来させるけど、知らない人についていったら駄目だからな?」
「はい、ちゃんとお兄様を待ってます」
なんとか笑顔を作った。ヴィクトルが私に会釈をして先に出て行った。兄は何度も振り返りながら心配そうだったが、大丈夫、と口の動きで伝えると、彼はようやく頷いて部屋を出て行った。
広い室内に私のため息が響いた。
窓辺によって外を眺めると、シュタイン公爵家の立派な庭園が見えた。侯爵家より間違いなく潤沢な資金があるであろうその庭園にはガス灯がともされ、綺麗にライトアップされている。その明かりがみるみるうちにぼやけてきてしまうのを、今だけは自分に許した。