元書店員ですが、転生したら貴族令嬢になっていました!
2.完全に混乱中です!
呆然としていると、後方でガチャッとドアノブを回す音がした。
「お嬢様、お目覚めになられたんですか!?」
ドレッサーの前でぼんやりと立ちすくんでいる私の目の前に足早にやってきたのは、分かりやすく私はメイドです、な白黒のメイド服を着ている中年の女性であった。見た目はやはり西洋人風で、灰褐色の瞳にグレーと金がまじったような髪色である。
そしてそこで私は彼女の言葉を自分が理解していることに気づく。吹き替え映画のように口の動きと台詞が合っていないのであるが、それでも分かるということが重要だ。ということは私の言葉も相手に理解してもらえるのでは、とおそるおそる私は尋ねた。今、一番知りたいことを。
「あの……私、誰ですか?」
「お嬢様!?」
どうやらきちんと言葉は通じたようだ。しかし私の質問にメイドさんがさっと青ざめる。
「お嬢様、失礼ですが、その、お嬢様のお名前はお分かりになりますか?」
「名前? 名前は……」
名前って言われても、一つしか思い浮かばない。
「皆原凛音です」
「――ッ」
ますます顔色が青くなったメイド風おばさんが、しばらくして、諦めたようにふうっと息を吐いた。
「お身体が冷えてしまいますから、ベッドにお戻りください。お医者様を呼んでまいります!」
「はい……」
言われるがまま、無駄に高さのあるベッドによじ登る。脳内では、やはりこの少女が皆原凜音のわけがないと思っていた。けれど、この少女の中にいる私の意識は間違いなく、皆原凛音なのである。
私は星倫堂書店という店で書店員をしていた。正直に言えば、明日はめちゃくちゃ楽しみにしていたシリーズの最新刊の発売日だったから、今ここで西洋風少女になっている場合ではない、と叫び出したい。
(だって明日は……ケイン伯爵シリーズ第5巻の発売日じゃないか……)
ケイン伯爵シリーズは知る人ぞ知るBL小説の名作である。じれもだで、攻と受がすれ違ってばかりいたけれど、第五巻でようやくケイン伯爵と従者レフティーの恋が実るはずだったのに……。私は雑誌掲載は読まずに、単行本派だったので、めちゃくちゃ楽しみに待っていたというのに、読めないのか……とがっくり肩を落としていると、静かな足音が響いて、続いてドアが開けられた。
「お嬢様、お目覚めになられたんですか!?」
ドレッサーの前でぼんやりと立ちすくんでいる私の目の前に足早にやってきたのは、分かりやすく私はメイドです、な白黒のメイド服を着ている中年の女性であった。見た目はやはり西洋人風で、灰褐色の瞳にグレーと金がまじったような髪色である。
そしてそこで私は彼女の言葉を自分が理解していることに気づく。吹き替え映画のように口の動きと台詞が合っていないのであるが、それでも分かるということが重要だ。ということは私の言葉も相手に理解してもらえるのでは、とおそるおそる私は尋ねた。今、一番知りたいことを。
「あの……私、誰ですか?」
「お嬢様!?」
どうやらきちんと言葉は通じたようだ。しかし私の質問にメイドさんがさっと青ざめる。
「お嬢様、失礼ですが、その、お嬢様のお名前はお分かりになりますか?」
「名前? 名前は……」
名前って言われても、一つしか思い浮かばない。
「皆原凛音です」
「――ッ」
ますます顔色が青くなったメイド風おばさんが、しばらくして、諦めたようにふうっと息を吐いた。
「お身体が冷えてしまいますから、ベッドにお戻りください。お医者様を呼んでまいります!」
「はい……」
言われるがまま、無駄に高さのあるベッドによじ登る。脳内では、やはりこの少女が皆原凜音のわけがないと思っていた。けれど、この少女の中にいる私の意識は間違いなく、皆原凛音なのである。
私は星倫堂書店という店で書店員をしていた。正直に言えば、明日はめちゃくちゃ楽しみにしていたシリーズの最新刊の発売日だったから、今ここで西洋風少女になっている場合ではない、と叫び出したい。
(だって明日は……ケイン伯爵シリーズ第5巻の発売日じゃないか……)
ケイン伯爵シリーズは知る人ぞ知るBL小説の名作である。じれもだで、攻と受がすれ違ってばかりいたけれど、第五巻でようやくケイン伯爵と従者レフティーの恋が実るはずだったのに……。私は雑誌掲載は読まずに、単行本派だったので、めちゃくちゃ楽しみに待っていたというのに、読めないのか……とがっくり肩を落としていると、静かな足音が響いて、続いてドアが開けられた。