元書店員ですが、転生したら貴族令嬢になっていました!

22.② 推しがエスコートしにきてくれました!

 シュタイン公爵家の馬車が待っていて、そこに2人で乗り込む。侯爵家の馬車も豪華だと思ったがシュタイン公爵家の馬車はもっと豪奢だった。クッションもふっかふかで、さすがだわ。ヴィクターはかなり大柄なので、これだけ広い馬車の中でも圧が凄いけどね。

「ハンデンバーグ家についての知識は?」

 馬車が走り出してすぐに問われたので、素直に首を横に振る。予想していた答えだったのか、さして驚きもせずヴィクターが説明を始めた。
 
 ハンデンバーグ家は、シュワルツコフ家と同じ侯爵の位ではあるが出世欲が非常に強い家なのだという。嫡男を王宮の騎士団に所属させ、2番目の息子は閣僚にするべく猛勉強をさせているという。2人いる娘に関しては、親は今後の自分たちの地位の安泰のために少しでも条件のいい嫁ぎ先を探すのに必死だとかー

(割とステレオタイプの貴族像って感じね)

 なるほど、と私は頷く。それにしてもヴィクターの説明には無駄がなく、彼が相当切れ者であることを感じさせた。さすがエリックの友人である。

「ハンデンバーグの上の娘からは、エリックのところにも縁談がきていたはずだ」

 も、ということは、きっとヴィクターにも同じように縁談を持ち込んだのだろう。

「そうですか」

 私の反応を彼が窺っている――と思う。彼の何一つ見逃すことがないような鋭い漆黒の瞳が少し怖い。そして縁談と聞いて思い出した。アリアナはとんでもないスキャンダルを抱えていたということを。

「そういえば……お礼を言っていませんでした。いくら兄の頼みとはいえ、私のような醜聞まみれの娘をエスコートしてくださってありがとうございます」

 驚いたように目を瞠ったかと思えば、ヴィクターの瞳が微かに和らぐ。

「気にするな。――俺は結婚する気がないから誰をエスコートしようが関係ない」

 ああそういえば、遊び人なんでしたっけね。
 国で力のある公爵家の息子とはいえ、跡継ぎではないヴィクターは財産分与もないらしいが、確か伯爵家の位がもらえるんだっけな?エリックが話していたような気がする。

「とはいえご迷惑をかけているのは事実ですから」

「迷惑じゃない」

 意外にはっきりとした口調でヴィクターが言った。

「お前をエスコートすることで、いらない縁談を避けられるならこちらにも利がある」

 私は改めて目の前に座る青年貴族を眺めた。言葉には何の温度も感じられなかったが、もしかしたら彼は私の気持ちを軽くしようと思って言ってくれているのかもしれないと思った。鋭利な印象を与える眼差しだが、その奥に優しさが垣間みえる。私はゆっくりと笑顔になった。

「それでも――ありがとうございます」

 私の笑顔に、ヴィクターがどこかが痛むようなそんな複雑な表情をしてみせた。
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