元書店員ですが、転生したら貴族令嬢になっていました!
23.② 子供は可愛いのです!
そんな時――
後ろで、いたっ!!という子供のような、男の子の声がした。振り向いたら、後ろの小道で金髪の少年が見事にうつぶせに転んでいた。
「わ、大丈夫?」
すぐにベンチから立ち上がって少年を助け起こす。しゃがみこんで、彼の洋服にいっぱいについた土や葉っぱを軽く叩き落としてやる。可愛らしい顔のその少年は瞳に涙をためていた。身なりがとてもいいので、今日のゲストの身内かな? まだ10歳くらいだろうか。
「ありがとうございます」
うるうるしながらも少年がちゃんとお礼を言う。
えらい。絶対この子いい家の子!決定!
今日も隠しポケットにいれてきたハンカチで、私はしゃがんだまま彼の涙をふいてあげる。
「ちゃんと泣き止んだの、えらいね」
私がにっこり笑ってそう言うと、つられたように少年がぱっと笑顔になった。あー可愛い。ヤバい。癒される。先ほどまで心の中いっぱいだった寂しさが薄れていく。
「僕、ここの噴水を見に来たんです、面白い仕掛けがあるって聞いて」
「へぇ」
さっきぼんやりと噴水は視界に入っていたが、仕掛けには気づかなかった。
「どんな仕掛けなの?私にも教えてくれる?」
「もちろんです!」
少年と手をつないで、噴水近くまで行った。彼によるとここの噴水は三十分ごとに水が吹き上がるらしいのだが、その時に真ん中の柱が2つに開いて、オルゴールが鳴って中の金の天使像がくるくる回るらしい。
(金の天使像……!? どうせ本当の金なんでしょ? な、成金趣味としかいいようがない)
けれどこの時代背景、このくらいの年の子にはとてつもなく魅力的にうつるだろう。それでは一緒に待とうと思って、金ぴかのベンチに座った。座ってから、ハッとした――私みたいな醜聞まみれのアリアナと、未来あるだろうこの少年が隣り合わせに座っていいものかどうか……ささっと周りを見渡して――びしりと固まる。
庭園の入り口から、ヴィクターがはっきりと面白がっている表情で私たちを見ていたからだ。
☆☆☆
「ヴィクトル・シュタイン様!」
ヴィクターが近寄ってくると、少年がささっと立ち上がって彼に礼をした。
「アーノルドのところの、息子か」
「はい!」
どうやら2人は知り合いらしい。とりあえずヴィクターが来てくれたら、この少年の体面は守れるだろう。私はほっとしてベンチにもう一度座った。2人がアーノルドがどうとかアレク様がどうとかあれこれ喋っているのを聞いていると先ほどまで感じていた寂寥感はもうすっかりなくなっていた。
☆☆☆
「アリアナ様!みてください! あの天使像!」
しばらくして、天使像がくるくる回りだすと、少年―ジャンが大喜びで指さした。時間になり、予想以上の金ぴか天使が出てきて、シャーッと小便風に水を出し始めたときには、一体どうなることかと思った。しかもオルゴールの音楽がオルゴールなりに盛大に鳴り出すと、水をまき散らしながら天使がくるくる回りだし、うん、まぁ、こういうのを立派にしたらラスベガスあたりであるかも、と思うことにした。何よりジャンがはしゃいでるのが相当可愛い。家の浴槽で天使の真似しないようにね、ジャン。
「かわい……」
ジャンを見つつ、思わずそっと呟くと、ヴィクターの右眉があげられたが私は気づかないふりをした。ジャンは噴水のショーが終わると、迎えに来た父――ヴィクターの知り合いで挨拶を交わしていた――と共に帰っていった。
「俺たちもそろそろ中へ戻らないといけない」
あの空間に戻るのかと思うと、正直げんなりした。でも確かに恋人でも婚約者でもなんでもない私たちが2人で此処にいるのも余計な噂を招くだけだし、そろそろ侯爵もランチを終えて戻ってくる頃合いだろうと覚悟を決めた。
「子供、好きなんだな」
ヴィクターがぽつりと呟くので、頷いた。
「はい」
「そうか」
彼が何を考えているのかは一切分からないが、その横顔がほんの少し緩んでいるような気がした。
後ろで、いたっ!!という子供のような、男の子の声がした。振り向いたら、後ろの小道で金髪の少年が見事にうつぶせに転んでいた。
「わ、大丈夫?」
すぐにベンチから立ち上がって少年を助け起こす。しゃがみこんで、彼の洋服にいっぱいについた土や葉っぱを軽く叩き落としてやる。可愛らしい顔のその少年は瞳に涙をためていた。身なりがとてもいいので、今日のゲストの身内かな? まだ10歳くらいだろうか。
「ありがとうございます」
うるうるしながらも少年がちゃんとお礼を言う。
えらい。絶対この子いい家の子!決定!
今日も隠しポケットにいれてきたハンカチで、私はしゃがんだまま彼の涙をふいてあげる。
「ちゃんと泣き止んだの、えらいね」
私がにっこり笑ってそう言うと、つられたように少年がぱっと笑顔になった。あー可愛い。ヤバい。癒される。先ほどまで心の中いっぱいだった寂しさが薄れていく。
「僕、ここの噴水を見に来たんです、面白い仕掛けがあるって聞いて」
「へぇ」
さっきぼんやりと噴水は視界に入っていたが、仕掛けには気づかなかった。
「どんな仕掛けなの?私にも教えてくれる?」
「もちろんです!」
少年と手をつないで、噴水近くまで行った。彼によるとここの噴水は三十分ごとに水が吹き上がるらしいのだが、その時に真ん中の柱が2つに開いて、オルゴールが鳴って中の金の天使像がくるくる回るらしい。
(金の天使像……!? どうせ本当の金なんでしょ? な、成金趣味としかいいようがない)
けれどこの時代背景、このくらいの年の子にはとてつもなく魅力的にうつるだろう。それでは一緒に待とうと思って、金ぴかのベンチに座った。座ってから、ハッとした――私みたいな醜聞まみれのアリアナと、未来あるだろうこの少年が隣り合わせに座っていいものかどうか……ささっと周りを見渡して――びしりと固まる。
庭園の入り口から、ヴィクターがはっきりと面白がっている表情で私たちを見ていたからだ。
☆☆☆
「ヴィクトル・シュタイン様!」
ヴィクターが近寄ってくると、少年がささっと立ち上がって彼に礼をした。
「アーノルドのところの、息子か」
「はい!」
どうやら2人は知り合いらしい。とりあえずヴィクターが来てくれたら、この少年の体面は守れるだろう。私はほっとしてベンチにもう一度座った。2人がアーノルドがどうとかアレク様がどうとかあれこれ喋っているのを聞いていると先ほどまで感じていた寂寥感はもうすっかりなくなっていた。
☆☆☆
「アリアナ様!みてください! あの天使像!」
しばらくして、天使像がくるくる回りだすと、少年―ジャンが大喜びで指さした。時間になり、予想以上の金ぴか天使が出てきて、シャーッと小便風に水を出し始めたときには、一体どうなることかと思った。しかもオルゴールの音楽がオルゴールなりに盛大に鳴り出すと、水をまき散らしながら天使がくるくる回りだし、うん、まぁ、こういうのを立派にしたらラスベガスあたりであるかも、と思うことにした。何よりジャンがはしゃいでるのが相当可愛い。家の浴槽で天使の真似しないようにね、ジャン。
「かわい……」
ジャンを見つつ、思わずそっと呟くと、ヴィクターの右眉があげられたが私は気づかないふりをした。ジャンは噴水のショーが終わると、迎えに来た父――ヴィクターの知り合いで挨拶を交わしていた――と共に帰っていった。
「俺たちもそろそろ中へ戻らないといけない」
あの空間に戻るのかと思うと、正直げんなりした。でも確かに恋人でも婚約者でもなんでもない私たちが2人で此処にいるのも余計な噂を招くだけだし、そろそろ侯爵もランチを終えて戻ってくる頃合いだろうと覚悟を決めた。
「子供、好きなんだな」
ヴィクターがぽつりと呟くので、頷いた。
「はい」
「そうか」
彼が何を考えているのかは一切分からないが、その横顔がほんの少し緩んでいるような気がした。