元書店員ですが、転生したら貴族令嬢になっていました!

24. ① 酒は飲んでも飲まれるな!

「ヴィクターと随分仲良くなったみたいだね」

 半年ぶりに兄が王宮から戻ってきた。この前はアリアナの舞踏会付き添いに合わせての有休消化だったみたいだが、今回は普通の休暇だそうだ。一週間は滞在できるらしい。

 ティナさんによると、アリアナがいた時分は兄は休暇で王宮から戻ってくるたびにシュタイン家に入り浸っていたらしい。そこまでしてアリアナに会いたくなかったようだが、シュワルツコフ兄妹が一緒にいるだけで天変地異だとヴィクターが言っていたことを思えば、納得である。

 ヴィクターにはあのお茶会の後も、何回かエスコートをお願いする機会があった。彼は淡々としているが決して私を邪険にすることなく、優雅にエスコートをこなしてくれた。会う度に彼の態度が柔らかくなっているのも感じてはいた。彼はとても人気のある貴族の一人なので、私ばかりに構ってもいられず、ヴィクターが席を外した途端に彼狙いの貴族令嬢たちに絡まれ嫌味を言われる事も何回もあった。
 その度にヴィクター本人がどこからかやってきて、ブリザードのような冷たい言葉と視線で蹴散らしてくれる。令嬢たちに絡まれること自体は私はたいして気にはしていないのだが、彼の心遣いが嬉しかった。

 夜会にも何回か参加した。ダンスはいまだあまり得意ではないのだが、醜聞まみれのアリアナに表立ってダンスを申し込む貴族青年はおらず、私は壁の花となることでその時間をやり過ごしていた。ヴィクターがいつもぴったりと隣に立っているので、申し込みたくても申し込めなかった、というのもあるかもしれない。

 しかし社交界でのヴィクターの噂はひどいもので、色んな未亡人に手を出す恋多き男性、ということでもちきりだ。そんな彼がこうやって私の隣に常にいることで、最近アリアナ――しかもつい先日醜聞を起こした――にご執心だと余計に噂に火がついているようだ。それでいいのかと心配したが、当のヴィクターはこれで本当に余計な縁談がこなくなるとせいせいした様子なので私は黙るしかなかった。

 ヴィクターは遊び人ということになっているが、私にはどうしてもそんな気がしなかった。夜な夜な遊び回り、未亡人を相手にしているようなそんな崩れた気配は彼から一切しないのだ。確かに『仕事』では良く屋敷をあけているみたいだが、それはあくまで『仕事』であり、皆が噂するような浮ついた理由ではないのではないか、と感じている。まぁどんな『仕事』をしているのかまでは私も知らないのだけど。
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