元書店員ですが、転生したら貴族令嬢になっていました!

33.② 昔から雨降ったら地固まると申します

 私の体調が少しよくなると、ヴィクターはすぐに公爵家の別邸に私を連れ帰った。

 それまでずっとエリックの部屋に泊めてもらっていて(兄は公爵家の別邸に部屋を用意してもらって夜はそちらに行っていたが)気心の知れた兄が公務の合間にちょくちょく顔を出してくれてあれこれと面倒を見てくれるのは心地よく、全く持って不便を感じていなかった。しかしあの日以来今まで以上に独占欲を発揮するようになったヴィクターがその状況をよしとしなかった。エリックにでも私の意識が向いているのが許せないらしい。

「ヴィクターはもうお前の騎士みたいに四六時中つきまとってるな」

 私が兄の部屋を引き上げる日、エリックは呆れたようにそう言って笑っていたが、その瞳の奥は優しかった。

 私の肺炎騒ぎでヴィクターは仕事をし始めるのが遅れたものの、私がエリックの部屋に泊まっている間にヴィクターはさっさと仕事を始め昼間はいなくても夜になるとエリックの部屋に戻ってきてソファーで寝ていた。

「そうそう、件のマリアンヌ嬢にはそれ相応の罰を与えておいたから」

 私を迎えに来たヴィクターにエリックが何でもないことのように告げた。

「あの女なんかどうでもいい」

 ヴィクターがブリザード級の冷たさで言い放った。あとから兄に聞いたところによると、私が走り去った後に追いかけようとしたヴィクターに縋り付くマリアンヌの尊厳をはっきりと傷つける言葉をヴィクターは言い放っているようで私はそれ以上のことは求めていなかったのだが――そのあとに尚、それ相応の罰を与えていた、とは?

「いや、俺が許せなくてね。自分の欲のためにリンネを傷つけた報いを受けさせないと気が済まない」

(気づいていたけどさ、エリックの方がヴィクターの数倍、怖いよね?)

 私は思わず彼に尋ねてしまった。

「な、なにをしたの?」

 兄はふふふと笑った。

「リンネが心配することないよ、大丈夫、身体的には何も問題ないから」

(怖い怖い怖い)

 兄が一番の危険人物であることが私の中で認定された瞬間だった。そして同時にあの貴族令嬢が気の毒にも思えた。

「私が悪かったんだよ、エリック。私が自分に自信がなくて―――」

 私がそう言いかけるとヴィクターが割り込んできた。

「凛音は何も悪くない、俺がもうちょっとちゃんときちんと伝えていたら――」

「いやいいんだ、リンネ。ああいう類の女をあのまま放置していたらどんなことをしでかすのか分からないんだから、庇うことない。貴族の甘やかされた女なんかほっといたらつけあがるだけだ」

 最後にエリックがはっきりきっぱり言いきった。

(エリックってさぁ……もてるのに、結構な女嫌いだよね?)

 兄の女性観を変えるような、素敵な貴族令嬢があらわれることを私は願った。

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