元書店員ですが、転生したら貴族令嬢になっていました!

 おいしいおいしいリンネの晩ご飯に舌鼓を打ち、大いに満足したエリックとヴィクターは仕事の話をするべく、ヴィクターの執務室へ移動した。ヴィクターは既にリンネに自分がどういった仕事に就いているかの概要は話しているが、仕事の詳細は話せないことをリンネは重々承知しているので、彼女は二人分の紅茶を持ってくるとすぐに部屋から出て行った。

「それで? ファビアンの件はどうなっている?」

 エリックは今の時点でわかっている事実をヴィクターに話した。ファビアン・スミスはスミス子爵家の嫡男ではあるが既婚者であり、その上でうら若き乙女を次々に毒牙にかけている放蕩者である。非常に見目よい麗しき男性で、口もとてもうまいのであるが、中身はただのくずとしかいいようのない人物だ。エリックの義妹アリアナは彼の口先三寸にひっかかり、自分の将来を憂いて、薬を大量に含んで自殺未遂を起こした。

「調べたら出てくる出てくる。詐欺罪が」

 王太子としてはもともと素行がよくないファビアンをマークはしていたが、恋愛沙汰では夜会での刀傷沙汰であったり、誘拐未遂を起こすなど明らかな現行犯でない限り捕まえることができない。ファビアンは頭も回る悪党でなかなか尻尾を出さなかったが、ようやく彼が企んだ数多の詐欺罪の片棒を担いだという使用人を見つけることができたのである。その使用人の命を守りながらも、ファビアンを捕まえるまでの証拠を得ていくのがエリックが王太子に任命された仕事である。

「なるほど。これであればファビアンが自滅するのも時間の問題だな。あとはいくつか違う詐欺罪の証拠が揃えば立件できるのではないか」

 ヴィクターはエリックが持ち込んだ資料を見ながらそう断定した。使用人が話してくれた証言だけではファビアンを断罪するのは少し難しいかもしれないと案じていたエリックだが、ヴィクターがエリックが考えていた通りの反応を示したので、この線でもう少し追ってみようと確信を得た。

 ファビアン・スミスを追いつめることはすなわち、アリアナ(リンネ)の汚名を注ぐことにつながる。余罪として彼が婚約詐欺をしていたことも明らかにすれば、アリアナは不幸な犠牲者となる。既に王太子直々に祝福され、ヴィクターと結婚しているアリアナ(リンネ)ではあるが、過去のスキャンダルが消えたわけではないので、これで払拭できるとあらば自然とエリックにも力が入るというものだ。それを見越して王太子はエリックにこの仕事を任せたのだろうし、実際エリックはいっぺんの慈悲も見せるつもりはない。完膚なまでに叩き潰す。

「助かった」

「気にするな」

「今日は泊まっていってもいいよな? 久しぶりに一緒に酒飲もうぜ」

 エリックはもちろんリンネが好きだが、ヴィクターのことも幼い頃から大事な友だと思っているのである。ヴィクターは眉を少しあげたが、ブランデーのデキャンタを執務室の棚から持ってきてエリックの前の机に並べた。

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