元書店員ですが、転生したら貴族令嬢になっていました!
7.スキャンダルなんて気になりません!
「アリアナは18歳になったところで、デビュタントデビューしたばかりだ」
デビュタント……。
頭の中でその言葉を考える。洋画好きでよかった、聞いたことがある。結婚適齢期とかで舞踏会にでるのかしら。この世界では同じようなしきたりが存在するのだ、ということを知った。
「我がシュワルツコフ家は代々恋愛結婚を奨励していてね、アリアナも自分で気になる男を見つけてきたらいいな、とは思ってはいたんだが」
「まぁ、それは素敵ですね……」
思わず呟く。貴族社会というと、幼い頃から親が決めた婚約者がいて……その婚約者に舞踏会で婚約破棄されて、隣に微笑む真のヒロイン。そして気づく、私って転生者の上、悪役令嬢だったということを!
うーん、この設定はステレオタイプすぎるか……。いやでも、設定が王道だからこそ、作者の色がつけられると読んでいて面白かったりするけれど。
現実逃避気味にしょうもないことを考えている私の前で、侯爵の顔がはっきりと曇った。
「素敵ではあるが……アリアナの場合、相手が悪かった」
「えっ」
「名うての遊び人に引っかかってしまってね、婚約するだのなんだの言いくるめられてしまったみたいなんだが、まぁ相手がその……」
話がなんだか怪しい方向に進みだした。侯爵も最高に話し辛そう。可愛い娘の顔を見ながら、その張本人の醜聞を話すのはそりゃ躊躇われるでしょう……ね。
しかもアリアナが他人になった演技してるだけで実は彼女のままだったら、本人に本人のスキャンダルを話してるわけだもんね。まぁ、中身は本当に私だから大丈夫だけど。
「はい」
とりあえず聞いてるよとの意思を込めて、頷く。
「……既婚者でね。ある子爵家の嫡男だったんだが。相手の奥様から真相を正す手紙が我が家に届いたんだ。その時に初めて相手が結婚してたことを知ったアリアナはそれですっかり傷ついてしまってね」
あらなんと可哀そうに。
最悪男に騙されちゃったのか……。
現代日本だったら不倫話なんて掃いて捨てるほどあるけれど、おそらくかなり封建的であろうこの国の、爵位の高い家の令嬢であるアリアナには辛かっただろう。しかもそれが、もしかしたら初恋だったのかしら?
「それで言いにくいのだがその……自殺を図ってしまったんだ」
さすがにその言葉には私も驚いた。
「え!?」
「睡眠薬をね、大量に飲んで…それで1か月近く昏睡状態で。どんな医者に見せてももう手遅れだと…。」
☆☆☆
「驚かないんだね」
最初の衝撃が去ってからは冷静さを保っている私に、侯爵が驚いたように問いかけた。
「はぁ……私が育った国では、ままあることなんで」
不倫からの自殺未遂、というと、この国では他に類をみない一大スキャンダルなのだろう。日本でも勿論大ごとにはなるが、この国では訳が違うんだろうな。とにかく私は侯爵の話を頭で整理した。
「要は目覚めないはずの『アリアナ』が目覚めたら、『私』になってた、というわけなんですね」
重々しく頷く侯爵。そういう経緯があったとしたら、もしかしたら『現実逃避』で別人格を生み出したと思われても不思議ではないけど……私が完全に別人格と言わず、別人だと認めてくれたのには何か理由があったのかしら? その疑問をぶつけてみる。
「アリアナはとても内向的で消極的な子だったんだ。友達も少なくて……。だから口のうまくて見目の良い男に簡単に騙されてしまったんだが……。とにかく大人しくてメイドにお礼を言ったりあれこれ頼むのも出来ないくらいだったのだよ。だから貴女が目覚めてすぐに明るく受け答えするから、ギルバードもメイド長も驚いていた」
あ、ティナさんたら、メイド長なんですね。
「ギルバードによると、記憶喪失のような問答ではなかったみたいだし、論理も破綻していなくて本当に別世界から来たかのようだ、と。メイド長からも大人のような受け答えをすると報告を受けている。今の時点では、貴女はアリアナとは別人だという結論に至った」
「そうですか……。あ、そういえば、侯爵の奥様は何処にいらっしゃるんですか?」
そういえばこの家には女主人の影がないと思い、ふと気づいて尋ねてみる。
「3年前に流行り風邪で亡くなった。妻が存命だったら、アリアナがあんな男に引っかかる前に気づいて止められたかもしれないのだが……残念ながら私にはアリアナは何も話してくれなくて」
さっきこの家は代々恋愛結婚で云々言ってたから、大好きだったんでしょうね、奥様のこと。だけどまぁ年頃の娘さんって父親にあれこれ自分の恋愛話をペラペラ話さないよね、性格も物静かだったみたいだし。しかし目の前で侯爵がみるみる暗い表情になってしまった。
ごめんなさい、私ったら傷を容赦なく抉り出してない?
「とりあえずリンネに頼みがある」
「はい、私に出来ることでしたら」
「アリアナとして生きてくれないか?」
デビュタント……。
頭の中でその言葉を考える。洋画好きでよかった、聞いたことがある。結婚適齢期とかで舞踏会にでるのかしら。この世界では同じようなしきたりが存在するのだ、ということを知った。
「我がシュワルツコフ家は代々恋愛結婚を奨励していてね、アリアナも自分で気になる男を見つけてきたらいいな、とは思ってはいたんだが」
「まぁ、それは素敵ですね……」
思わず呟く。貴族社会というと、幼い頃から親が決めた婚約者がいて……その婚約者に舞踏会で婚約破棄されて、隣に微笑む真のヒロイン。そして気づく、私って転生者の上、悪役令嬢だったということを!
うーん、この設定はステレオタイプすぎるか……。いやでも、設定が王道だからこそ、作者の色がつけられると読んでいて面白かったりするけれど。
現実逃避気味にしょうもないことを考えている私の前で、侯爵の顔がはっきりと曇った。
「素敵ではあるが……アリアナの場合、相手が悪かった」
「えっ」
「名うての遊び人に引っかかってしまってね、婚約するだのなんだの言いくるめられてしまったみたいなんだが、まぁ相手がその……」
話がなんだか怪しい方向に進みだした。侯爵も最高に話し辛そう。可愛い娘の顔を見ながら、その張本人の醜聞を話すのはそりゃ躊躇われるでしょう……ね。
しかもアリアナが他人になった演技してるだけで実は彼女のままだったら、本人に本人のスキャンダルを話してるわけだもんね。まぁ、中身は本当に私だから大丈夫だけど。
「はい」
とりあえず聞いてるよとの意思を込めて、頷く。
「……既婚者でね。ある子爵家の嫡男だったんだが。相手の奥様から真相を正す手紙が我が家に届いたんだ。その時に初めて相手が結婚してたことを知ったアリアナはそれですっかり傷ついてしまってね」
あらなんと可哀そうに。
最悪男に騙されちゃったのか……。
現代日本だったら不倫話なんて掃いて捨てるほどあるけれど、おそらくかなり封建的であろうこの国の、爵位の高い家の令嬢であるアリアナには辛かっただろう。しかもそれが、もしかしたら初恋だったのかしら?
「それで言いにくいのだがその……自殺を図ってしまったんだ」
さすがにその言葉には私も驚いた。
「え!?」
「睡眠薬をね、大量に飲んで…それで1か月近く昏睡状態で。どんな医者に見せてももう手遅れだと…。」
☆☆☆
「驚かないんだね」
最初の衝撃が去ってからは冷静さを保っている私に、侯爵が驚いたように問いかけた。
「はぁ……私が育った国では、ままあることなんで」
不倫からの自殺未遂、というと、この国では他に類をみない一大スキャンダルなのだろう。日本でも勿論大ごとにはなるが、この国では訳が違うんだろうな。とにかく私は侯爵の話を頭で整理した。
「要は目覚めないはずの『アリアナ』が目覚めたら、『私』になってた、というわけなんですね」
重々しく頷く侯爵。そういう経緯があったとしたら、もしかしたら『現実逃避』で別人格を生み出したと思われても不思議ではないけど……私が完全に別人格と言わず、別人だと認めてくれたのには何か理由があったのかしら? その疑問をぶつけてみる。
「アリアナはとても内向的で消極的な子だったんだ。友達も少なくて……。だから口のうまくて見目の良い男に簡単に騙されてしまったんだが……。とにかく大人しくてメイドにお礼を言ったりあれこれ頼むのも出来ないくらいだったのだよ。だから貴女が目覚めてすぐに明るく受け答えするから、ギルバードもメイド長も驚いていた」
あ、ティナさんたら、メイド長なんですね。
「ギルバードによると、記憶喪失のような問答ではなかったみたいだし、論理も破綻していなくて本当に別世界から来たかのようだ、と。メイド長からも大人のような受け答えをすると報告を受けている。今の時点では、貴女はアリアナとは別人だという結論に至った」
「そうですか……。あ、そういえば、侯爵の奥様は何処にいらっしゃるんですか?」
そういえばこの家には女主人の影がないと思い、ふと気づいて尋ねてみる。
「3年前に流行り風邪で亡くなった。妻が存命だったら、アリアナがあんな男に引っかかる前に気づいて止められたかもしれないのだが……残念ながら私にはアリアナは何も話してくれなくて」
さっきこの家は代々恋愛結婚で云々言ってたから、大好きだったんでしょうね、奥様のこと。だけどまぁ年頃の娘さんって父親にあれこれ自分の恋愛話をペラペラ話さないよね、性格も物静かだったみたいだし。しかし目の前で侯爵がみるみる暗い表情になってしまった。
ごめんなさい、私ったら傷を容赦なく抉り出してない?
「とりあえずリンネに頼みがある」
「はい、私に出来ることでしたら」
「アリアナとして生きてくれないか?」