ただ今、2人の王子に愛され中


 職員室に入り、越智先生の元へプリントを運ぶと、彼はあからさまに眉をひそめた。


「あれ…。これ、立花に頼んだと思うんだけど…。」

「立花さん、この後用事があるそうなんで、私が代わりに。」

「ああ、そう…。」


 越智先生は、何とも言えない微妙な表情を浮かべた。


「じゃあ、私はこれで失礼します。」


 私はそう言い切らないうちに、職員室を退室した。

 廊下では、さっき踊り場でぶつかってしまった彼が待機していた。


「終わった?」

「はいっ。すみません、運ぶの、手伝ってもらっちゃって。」

「いいよいいよ。」


 彼は大げさに、顔の前で手を振った。


「じゃあ僕はこれで。」

「はい。今日はありがとうございました。」

「うん。あっ…そうだ、君、名前聞いていい?」

「名前ですか?私は…1年の、桜庭音葉といいます。」

「さくら、ば…。」


 気のせいか、彼は、少し目を見開いたように見えた。


「じゃあ、音ちゃんだね!」

「えっ…音ちゃん?!」


 突然の『音ちゃん』呼びに驚く私を見て、彼は少し笑った。


「うん。音ちゃん。僕は、3年の岡田(じん)。覚えといてよ。」

「あっはい。岡田先輩…。」

「かたいなあ。陣くんでいいよ。」


 彼は微笑むと、くるっと身をひるがえす。

 そして肩越しに振り返ると、


「じゃあね。またどこかで会ったらよろしく。」


 爽やかに笑い、廊下の奥へと去っていった。


 …なんだったんだろう。

 とりあえず、悪い人ではなさそうだった。

< 10 / 29 >

この作品をシェア

pagetop