ただ今、2人の王子に愛され中


 出会いは、最悪だったと言える。


 僕と桜庭音葉…音ちゃんは、階段の踊り場でぶつかり、お互い派手に転んだ。


「ご、ごめんなさい!あの、大丈夫ですか?」


 音ちゃんはそう言うと、僕に手を差し出してきた。

 その時、僕は初めて音ちゃんの顔を見て、息をのんだ。


 彼女は、とんでもない美少女だった。

 とにかくデカい目に、小さい鼻、プルっとした唇。


 びっくりした。

 こんなにも可愛い子が、この世に存在しているのか。


 僕の中で、コトンと、硬くて柔らかい音がした。

 たぶん、それが、


 恋に落ちる音、だったんだろう。


 僕は、彼女に一目惚れした。


 人を好きになるとはこういうことなんだと、分かった気がした。

 彼女こそ運命の人だと、何の根拠もなしに、ぼんやりと思った。


 職員室の前で彼女と別れるとき、僕は彼女に名前を訊ねた。


「名前ですか?私は…1年の、桜庭音葉といいます。」


 驚いた。

 桜庭音葉。

 聞き覚えのある名前だった。

 弟の口から、呆れるほど聞いた名前。


 この子が、僕の弟の、隼人の、幼なじみ。

 そしておそらく、隼人の片思いの相手。


 弟には悪いが、この子は僕がいただく。

 僕は、この子に恋をした。

 この子、音ちゃんのことが好きだ。


 音ちゃんは、僕のモノにしてみせる。

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