ただ今、2人の王子に愛され中
第1章 恋はいつも突然に

塩王子と甘々王子〈音葉side〉






『1番好きな人の、1番になること』





「おい…何やってんだよ。」


 頭上から、不機嫌な声が降ってくる。

 私は恐る恐る顔を上げ、声の主と目を合わせた。


隼人(はやと)…。ご、ごめんっ…。」


 目の前に立つ隼人のジャージは、上下ともにびしょびしょに濡れていた。


「ごめんで済むのかよ。」


 隼人は眉間にしわを寄せ、顔を近づけてくる。


「俺、今日ジャージしか持ってきてないんだけど?」

「せ、制服は…。」

「昨日お前が汚したんだろーが!」


 そういえば。

 昨日、校庭の掃き掃除をしていた時。

 雨上がりだったせいもあって、校庭には、そこらかしこに大小様々な水たまりができていた。

 私は間違って、その水たまりにホウキを突っ込み、掃いてしまったのだ。

 そしてその跳ねた泥が、そばにいた隼人のブレザーに、まともにかかって…


「ああ!そういえば、汚したね。」

「汚したねじゃねーんだよ。で?どーすんの?」

「どうするって…。」


 先ほど、教室の拭き掃除を終えた私は、水を捨てに行こうとバケツを持ち上げた。

 バケツは想像していたよりもずっと重く、私は持った拍子にバランスを崩した。

 バケツに入っていた水は、そばにいた隼人のジャージに、まともにかかって…


「あ!じゃあ、私は制服持ってるから、私が今着てるジャージを隼人が着て帰る…っていうのはどう?」

「えっ、」


 隼人の眉間のしわが、一瞬ゆるんだ。

 彼の顔は、少し赤いような気もする。

 …どうしたんだろ?


「じゃ、じゃあそれでいいや。今度から気をつけろよ。」

「うんっ。本当にごめんなさい。今着替えてくるね!」


 私は制服の入っているかばんを掴むと、女子トイレへと向かった。

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