チョコレートがなくても
二月十四日は、世界中の恋をする人たちにとってとても大切なイベントだ。その名はバレンタインデー。

昔のローマ帝国では、故郷の家族を恋しがって兵士の士気が下がらないよう、兵士の結婚は禁じられていた。それをかわいそうだと思ったヴァレンタイン司祭がこっそりと恋人たちの結婚式を行ったのだが、皇帝の怒りを買ってしまい二月十四日に処刑された。これがバレンタインの成り立ちである。

「……とはいえ、成り立ちなんてみんな知らずに浮かれてるんだよなぁ」

バレンタインの成り立ちが書かれたスマホの記事を読み上げ、仕事をする苺谷絢音(いちごだにあやね)の隣で同僚のOLが笑う。絢音は手を止め、同僚の方を向いた。

「あたし、その話知ってるよ。彼が物知りで教えてもらったんだ。でも最近のローマ史って、世界中の歴史家の手によってここ数年でだいぶ変わっているみたいだよ」

「ローマ史が変わってるってどういうこと?」

同僚が興味ありげに訊ねたので、絢音は「全部、彼から教えてもらったことなんだけど……」と前置きしてから話す。
< 1 / 11 >

この作品をシェア

pagetop