Be My Valentine.
「斎藤さん、僕もクッキー頂けるのかな。」
教卓前の私の机の前で盛り上がっていると、出席簿を担ぐように持って私たちに絡んでくる声。
彼は私の担任で理科教師の岬俊介。
確か今29歳で若いこととルックス、それから校則に対して緩いとことかが相まって、女子からの人気は絶大なものだった。
「...岬先生にあげるわけないじゃん。」
「それは残念。
おーい、朝礼始めっから席つけ。」
彼の声を聞き、みんなぞろぞろと席に戻る。
朝礼がいつも通りに進められ、最後に
「バレンタインとか色恋もいいが、あまりはめを外しすぎんなよ。
はい、以上。」
そんなことを言っていたのもつかの間。
朝礼が終わると、彼は何人かの女子に囲まれていく。
「みさきち、チョコ受け取って〜」
「おー、あとで食べるわ。さんきゅ。」
つい数十秒前まで生徒をいさめていたのに、今は普通の顔しておおよそ本命に近しいような包装のチョコレートを受け取る彼の姿に唇の箸を噛んだ。