お願い、名前を呼んで。
私がロビーに着くと、竹内君はまだ居なかった。
ロビーあるベンチに座って、プライベート携帯を見ながら彼を待つ。

社用携帯には、裁き切れない程の連絡があるのに、こっちの携帯に届いているのは、登録してあるショップの宣伝ぐらいだ。

所詮、私のプライベートはこんなものだ。
でも、いつもならもっと虚しくなるのだけれど、今日は同期とは言え、異性との待ち合わせをしている、この時間に救われる。

いつぶりだろう、こんな感覚。

10分程して、竹内君がエレベーターから降りて来た。

「ごめん、待たせちゃったな。」

「大丈夫だよ。私も今、来たところ。」

「帰り際に、部署のみんなに捕まっちゃって。久しぶりだから、飲みに行こうって。」

「大丈夫だったの?もし、そっちに行くなら、私はいいよ。また、今度でも。」

「いいよ、俺は野崎と飲む方が楽しいし。それに、今回もあんまり時間がないんだ。明後日にはまた、向こうに戻らないといけないし。」

「そうなんだ。すぐ戻っちゃうんだね。」

私は、勝手に竹内君は帰って来たものだと思っていたから、寂しさを覚える。

「何?俺がいなくて寂しかった?ちょっと嬉しいかも。野崎が寂しがってくれるなら、俺、もうちょっと、こっちに居ようかな。」

「何言ってるの、仕事でしょ。竹内君は同期で相談しやすいからさ。」

「何だよ、愚痴相手かよ。でも、相談がある時は、いつでも電話してくればいいじゃん。」

「そう言う訳にもいかないよ。だって、竹内君も忙しそうだもん。」

「忙しいのはお互い様だろ。それより、早く行こう。ここにいて、部署の奴らに見つかると、ややこしくなりそうだから。」
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