お願い、名前を呼んで。
優しい夜
私は、今日の打合せでの話をした。

「そいつ、優香のこと、全然分かってないな。」

竹内君は、吐き捨てるように言った。
一緒になって怒ってくれるのは嬉しいけど、私はそれ以上に、すっかり『優香』呼びになっている竹内君にドギマギしてしまう。

「俺は、野崎には『優香』って名前はピッタリだと思うし、誰よりも優しくて、一生懸命だと知ってるから。」

竹内君も酔ってるのか。
その言葉に私の中で張り詰めていたものが、プツッと切れて、涙が溢れた。

「竹内君って、そんなに優しかったっけ?向こうで新しい彼女でも出来た?」

「向こうで、そんな余裕ないよ。俺は思った事を言ってるだけ。優香のこと、何年知ってると思ってるんだよ。もう10年だぞ。」

そう言いながら、おしぼりを渡してくれる。

「泣くな、優香。お前も大変なんだな。でも、あんまり頑張りすぎるなよ。」

私の涙はますます溢れて来る。

「あんまり優しくしないでよ。私、そういうの慣れてないんだから。」

「俺は昔から優しいだろ。泣き虫のくせに、ひどい奴だな。」

竹内君は女の涙の扱い方に慣れている。
今まで、何人の女を泣かしてきたんだろう。
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