お願い、名前を呼んで。
仕事を進めていると、藤田さんがデスクにやって来た。

「昨日の修正点を纏めてくれて、ありがとう。
さすが野崎さんは仕事が早いな。助かるよ。」

「いいえ、こちらこそ、ありがとうございます。
昨日の打合せが上手くいったのは、藤田さんのおかげですから。」

私は、藤田さんの方に向き直ってお礼を言った。

「何だ、野崎さん、体調悪いの?顔色悪いよ。」

「いえ、大丈夫です。」

「もしかして、二日酔い?」

「はい、まぁ、そんなところです。」

「仕事の鬼の野崎さんにしては、珍しいね。
あっ、そう言えば、うちの部署にも二日酔いの奴がいたな。もしかして、竹内と飲んだ?」

「はぁ、まぁ。」

ここで嘘を吐いても仕方がない。

「昨日、部署の奴らが竹内を誘って『予定があるから。』って断ったらしいのに、今朝、竹内が二日酔いで現れたから、あいつ、皆んなからブーイングの嵐に遭ってたよ。」

「たまたま、昨日の夕方に社内で会って、その時に飲みに行く事になったので。竹内君は、先約を優先してくれたんだと思います。」

藤田さんに意味のない言い訳をする。

「そうかな、俺だったら男と飲むより、女の子と飲みたいけど。竹内だって、部署の男連中より、野崎さんと飲む方がいいに決まってるよ。」

「いえ、私は女と言うより、ただの同期ですから。」

自分でも思った以上に事務的な口調になり、藤田さんが一瞬引いていた。

「そうなんだ。一応、この事は部署の奴らにも内緒にしとくよ。竹内も誰と飲んだかは言ってなかったし。じゃあ、修正終わったら、またメール送るね。」

藤田さんはそう言うと、設計部へと帰って行った。

うちのオフィスはL字型になっていて、設計部は同じフロアにあるけれど、私のデスクからだと見えない場所にある。

今日はそれが救いになった。
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