お願い、名前を呼んで。
内田様が席を立って出て行った後、エレベーターまで担当課長が私を見送ろうとした。
私は、それを丁重に断った。

彼は、済まなそうな顔で私を見て、
「よろしくお願いします。」と頭を下げた。

私は一礼をして、会議室を出て早足でエレベーターに飛び乗った。

クライアント企業を出て、携帯を取り出すと、藤田さんから何度も着信があった。

私は近くのベンチに座って藤田さんに電話をする。

ワンコールも鳴り終わらないうちに、藤田さんが電話に出てくれた。

「野崎さん、大丈夫？何があったの？」

私は、さっきの会議室での出来事を出来るだけ感情を挟まずに、藤田さんに伝えた。

「そうか。野崎さん、よく頑張ったね。一人で行かせてしまって、済まなかったね。でも、ちゃんと検討の時間を貰って来てくれて、ありがとう。」

「いえ、私がもっとちゃんと話ができてれば。」

「それは違うよ。僕が同行してても、同じ事になっていたよ。相手は最初からそう仕掛けるつもりだったんだから。落ち着いてからでいいから、ゆっくり帰って来て。これからの事は、オフィスで考えよう。」

「ありがとうございます。」

「自分を責めちゃ駄目だよ。」

藤田さんの言葉に、必死で涙を堪える。

藤田さんが頼れる人で良かった。
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