お願い、名前を呼んで。
隼人サイド
ミーティングから戻ると、携帯をすぐに手に取った。
バタバタしていて、デスクに携帯を置き忘れたままにしていたからだ。

きっと、ミーティングの間にも、優香からの折り返しがあった筈だと思っていた。

それなのに、数件の不在着信の中には、優香の名前はなかった。

忙しいのかな。

仕事上のこととは言え、彼女が俺からの連絡を心待ちにしていると期待していただけに落胆する。

資材メーカーの取引業者からは、今朝、いい返事をもらっていた。うちの会社でもよくお世話になっている「アクト」という会社だ。

これで、優香のプロジェクトは、クライアントの要望を叶えられるはずだ。

早く、資材の包括割引をしてもらえたことを報告して、彼女を喜ばせたい。

俺は、もう一度電話をしようと、履歴画面を開いた。

そこには驚いたことに、優香からの着信があり、通話履歴として残っていた。

何で?

今、俺が間借りしているスペースは、このショッピングモールの立ち上げのために集まった多種多様の業者が出入りしている。

仕事で関わる人もいれば、そうでない人もいる。

確かに、それぞれに距離感の違いはあるけれど、決して、他人の携帯に勝手に出るなんてマナー違反をすることはない筈なのに。
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