お願い、名前を呼んで。
不思議に思いながらも、優香へ再び電話をした。

2コールで彼女の声が聞こえる。

「もしもし、野崎です。忙しいのに迷惑を掛けてしまって、ごめんなさい。」

いきなり謝罪をされて、最初の違和感を感じる。

「別に迷惑だなんて思ってないよ。それより、資材メーカーから連絡があって、包括注文の件、了承してくれたよ。物によっては、2割までは引いてくれるって。」

「そう、ありがとう。助かります。」

優香はもっと喜んでくれると思っていた。

昨日の夜は、あんなに素直だったのに。
俺のテンションが下がっていく。

「優香、何かあった?」

「どうして?」

「何か余所余所しいからさ。」

「そうかな?仕事中だから。」

「あのさ、さっき電話くれただろ?誰かと話しした?」 
「あっ、うん。電話に出た方が、竹内君がミーティング中だって教えてくれました。」

「誰だった?他人の携帯に勝手に出る奴って・・・。男?女?」

「女性だったかな。名前をお聞したけど、忘れちゃった。きっと、私がしつこく電話したからだね。」

「しつこくって言っても、優香からの着歴は1度だけだったけど。」

俺は腑に落ちない。

「そうだったかな。でも、私が悪いんだよ。竹内君も忙しいのに、余計な仕事を増やしてしまって。竹内君のおかげでこっちは何とかなりそうだから、これからは控えるね。ありがとう。感謝してます。」

「昨日も言ったけど、俺は迷惑だなんて思ってない。優香の力になれる事があったら、何でも言って欲しいと思ってるよ。」

「ありがとう。この後の業者さんとのやり取りはこっちで進めていい?『アクト』さんなら、私もお世話になってるし、担当の谷口さんの連絡先も分かるから。」

優香は俺の話を聞いてるのか?
絶対に何かがおかしい。

この違和感の理由を追求したいけど、今は仕事中だし。

「じゃあ、忙しい時にごめんね。」

そう言うと、あっさり電話を切られてしまった。

俺は肩透かしを喰らったような気分だ。
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