お願い、名前を呼んで。
隼人サイド
俺は今、猛烈にイライラして、独りでやけ酒を煽っている。
自分の気持ちがこんなにコントロールできないのは久しぶりだと、天井を仰いだ。

今、住んでいるのは1DKのマンスリーマンションだ。
会社が借りてくれているから、家賃は払っていない。

忙しくて、掃除もまともにしていないから、物が散らかり放題だ。

備え付けの小さなテーブルには、既に飲み干した
缶ビールが並んでいる。

一週間前にここに戻って来た時には、優香をこの家に呼ぶ日が来るかも知れないとさえ思っていたのに。

今日の昼、優香の電話に勝手に出たであろう白井さんに釜をかけてみた。

彼女は平然と電話に出たことを認めた。

「あんまりうるさく鳴るから、『竹内さんはミーティング中です。」って伝えただけですよ。」

「他に何か言いました?」

「何も言ってないわよ。私、竹内君の会社の人なんて知らないから、話すこともないでしょ。」

それだけで優香の態度があんなに変わるとも思えないけど、これ以上、彼女に聞いたところで本当のことなんて言わないだろう。

「そもそも、電話を忘れていった俺が悪いんだけど、これからは他人の電話には出ないで下さいね。」

俺はそれだけ言って、彼女との話を切り上げ、自分の仕事に戻った。

最近、彼女の口調は敬語の中に、タメ口が混ざる。
俺は元々それを気にするタイプでもないし、仕事仲間としては寧ろ敬語でない方がやり易い時もあると思っている。

だけど、彼女と話す時は気を付けなければ・・・。
< 52 / 110 >

この作品をシェア

pagetop