お願い、名前を呼んで。
時計を見ると、12時少し前だった。

「部長は昼過ぎって言ってたから、まだ時間あるし、たまにはゆっくりランチでも行こうか。どう?」

藤田さんが誘ってくれる。

「いいですね。最近は、ランチなんてゆっくりしてる暇もなかったから。」

この辺りはオフィス街だから人通りも少なく、週末は休んでいるお店も多い。

私達は、近くのイタリアンレストランへと入った。
店内も空いていて、休日出勤しているらしきスーツ姿の人達がいくつかのテーブルを埋めている程度だった。

窓際の4人掛けテーブルに案内される。

「ゆったりしたお昼ですね。この後、部長へのプレゼンがなければ、ワインでも飲みたい気分です。」

もちろん、そんなことは出来ないので、私達はパスタランチを注文した。

「ここのランチ、美味しいんだよ。平日はいつも混んでてなかなか来れないから、今日はラッキーだったな。」

「私も、いつも行列を見て敬遠してました。でも、折角の週末に仕事なんてしてたら、奥さんに怒られませんか?」

「確かに、朝から『今日も仕事?じゃあ、私は今日も子供達と近くの公園で我慢だわ。』って嫌味っぽく言われたよ。」

「家族サービスも大変ですね。」

「そうだね。でも、楽しいこともあるし、家族がいるから頑張ろうって思えることも多いしね。」

「それは、私に対しての嫌味ですか?」

藤田さんは言ってから『仕舞った』って顔をした。
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