お願い、名前を呼んで。
提案資料も無事完成し、予定通りの時間に藤田さんとオフィスを出る。

できうる限りの準備をしても、やっぱり、クライアントとの打合せ前は、いつも緊張で手が震える。心臓がバクバクして来る。それを抑えるのに必死で、口数も減る。

本当は、藤田さんと最後の擦り合わせをする貴重な時間なのに、問い掛けにも上の空だ。

「野崎さん、もしかして緊張してる?」

「えっ、はい。」

「野崎さんでも緊張するんだ。意外だな。」

私は普段どんな風に見えてるの。
実はかなりの小心者なのに。

「まぁ、今回は大きな仕事だからね。部長からのプレッシャーも半端ないでしょ。」

今朝の山田部長の笑った顔を思い出す。
あれは、プレッシャーを掛けていたのか? 

「プレッシャーと言うより、人任せって感じですけど。もし、これが失敗した時には『野崎の力不足』って事にしたいんじゃないですか。」

「部長は、そこまで悪い人じゃないよ。きっと、野崎さんを信頼してるんだね。僕も野崎さんを信頼してるから。」

「ありがとうございます。」
と言ってみるものの、この状況だとそれが一番のプレッシャーとなり、私の震えは増していく。
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