お願い、名前を呼んで。

「実はさ、昨日の夜遅く、竹内から電話があったんだ。夜遅いし、何かあったのかと思って電話に出たら、あいつ酔っ払ってて。」

「珍しいですね。竹内君が酔って誰かに電話する
なんて。」

きっと、昨日、私との電話を切った後なのかもしれない。

「そしたらいきなり、『明日、野崎さんと二人で仕事なんですか？』って不機嫌な訳だよ。既婚者の僕に嫉妬するなんて、お門違いもいいとこだろ。」

藤田さんが嬉しそうに続ける。
私は返答に困る。

「挙げ句の果てに、野崎さんに悪い虫が付かないように見張っておけって言うから、自分で何とかしろって言っておいた。でも、野崎さんと僕が出勤だって竹内が知ってたのは、野崎さんが話したからだろ。」

「昨日は、竹内君が私の『仕事』を心配して電話をくれただけです。その時は酔ってませんでしたけど。」

「仕事」っていうのを強調して伝える。

「それにお礼も言いたかったから、少し話をして、そしたら今日の部長へのプレゼンの話になったんです。でも、本当にそれだけですよ。」

「別に、僕にそんなに必死に言い訳しなくてもいいよ。口外するつもりはないし。ただ、仕事のできる二人が恋愛になると、こんなに下手になるんだって、楽しませてはもらってるけどね。」

藤田さんは可笑しそうに笑った。

「やめて下さい！そんなんじゃないですから。」

「一応、竹内には『うだうだしてると他の男に取られるぞ。』って言っておいた。実際、沢村だって、野崎さんのことかなり気にしてるしな。」

「私なんて・・・。」