お願い、名前を呼んで。
私達は、新しいブランの説明を始めた。
部長は私が想像してた以上に、真剣に私達の話に耳を傾けて聞いてくれて、時々、メモを取っている。

そこには真剣な空気が漂い、私も藤田さんも本番さながらに、新しい提案について力説していた。

「これで、私達の提案は以上になります。如何でしょうか?」

部長が大きく頷いた。

「いい提案だったね。ここまで仕上げるには、苦労もしただろう。お疲れ様。」

「ありがとうございます。」

「ただ、1点だけ気になることがあるんだけど。
経費のところなんだけど、何故、うちのデザイン料と事務経費が変わっていないのかな?」

「それは、私達もこの変更で仕事量がかなり増えましたし、デザインも相当変えたので、これ以上は下げられないと思いまして。」

「いや、違うよ。僕が言いたいのは、安くしろってことじゃなくて、金額を上げないといけないんじゃないかと思ってる。」

「えっ。」

私と藤田さんは、同時に小さく驚きの声を上げると、顔を見合わせた。

「だって、当然だろう。君達は本来なら必要なかった仕事をしたのだから。」

「でも・・・。」

私達は、取引業者さんに値段を下げてもらっているのに、自分達の金額だけを上げるというのは、気が引ける。

「ここの金額を変更するのは、部長命令だ。
金額は君達に任せるし、その分を今回協力して貰った業者さんへ還元するなら、それでも構わない。ただ、自分達の納得できる金額にしなさい。」

部長には私達の思いもお見通しだった。

「これで、向こうが何を言って来ても構わないから。部長命令と言った以上、そこの責任は僕が取るから、安心して欲しい。」

そう言った部長の姿は、私が今まで見た部長の中で一番、上司らしく頼もしかった。

「承知しました。再度、検討します。金額の回答は月曜日でもよろしいでしょうか。」

「もちろん、僕は君達を信頼してるからね。では、僕はこれで失礼するよ。打上げに行かないといけないからね。」

もう、すっかりいつもの山田部長に戻って、ニカッと笑うと、サッサとオフィスを出て行った。
< 64 / 110 >

この作品をシェア

pagetop