お願い、名前を呼んで。
私と藤田さんは黙って、会議室の後片付けをしている。
本番さながらのプレゼンができたことも、本当に
良かったと思う。

これがもし、部長の作戦だとしたら、私は今まで、部長を侮っていたのだと申し訳ない気持ちにもなった。
それに、他人任せなお気楽な部長だと思っていたけど、会社の経費については完璧な正論だった。

部長は私達の仕事を見て、私達の思いを知っていたのか、もしくは、あのプレゼンだけで読み取ったのかもしれない。
どちらにしても、すごいと思った。

「野崎さん、山田部長って案外洞察力あるだろ。」

「はい、正直、驚きました。返す言葉もありませんでした。」

「そうじゃなきゃ、あの感じで部長になんてなれないよ。だから、皆んなに愛されつつも、一目置かれてるんだろうな。」

私は上司でありながら、今まで部長と仕事上で、直接関わることはほとんどなかった。
私の担当していた個人宅は、ほとんど課長案件だったから。

「今回のプロジェクトに野崎さんを推したのは、山田部長だって話だよ。野崎さんの努力と実績をちゃんと評価してくれてるんだよ。厳し目でね。」

「山田部長は。クライアントの統括部長以上の狸親父かもしれませんね。」

「狸って!確かに狸っぽいけどね。」
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