お願い、名前を呼んで。
部屋に入ると、竹内君は荷物を玄関に置いた。

「トイレと洗面借りてもいい?」

「うん、どうぞ。」

私は場所を伝えようとしたけど、彼は知っていた。

そうだった。
私にとっては竹内君がこの部屋にいる光景は初めてだけど、彼にとってはこの部屋は初めてじゃない。

何なら、私の下着姿も見られているはずだ。

恥ずかしい。
ほとんど記憶がないことが、今になって悔やまれる。
竹内君は何を見たんだろう。
私は何を見られたんだろう。

でも、それを竹内君に聞くのは地雷を踏んでしまいそうで怖い。
 
私は洗面台で手を洗って、部屋に入る。
一応、片付けてはいるから大丈夫だ。

キッチンに行き、冷蔵庫を開ける。
ビールと昨日の残り物が少しだけ入っている。

もう10時を過ぎてしまっているから、近くのスーパーは開いていない。

竹内君が部屋に入って来た。

「そこに座って。何か飲む?アルコールはビールしかないけど。」

「ビールでいいよ。乾杯しよう。」

「うん、竹内君、夕ご飯は?何もないから、必要ならコンビニ行くけど。」

「大丈夫、新幹線で駅弁食べたから。」

「そっか。じゃあ、ビールだね。」

私はビールを2缶持って、ソファに座った。

「優香、着替えないの?ずっとスーツでいるつもり?」

「そうだね、じゃあ部屋着に着替えて来る。」

私は寝室に入って、いつもは着ないお気に入りの
パーカーとスエットに着替えた。

「優香、可愛い。やっぱり、スーツの時と雰囲気
変わるな。」

確かに長い付き合いだから、私服姿はお互い見たことはあっても、同期に部屋着を見せる機会はないよね。

竹内君はいつの間にかTシャツと短パンに着替えていた。
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