お願い、名前を呼んで。
隼人と呼べと言われたり、可愛いと言われたり、朝のルーティンが狂ってしまう。
私の朝には、そんなスケジュールは組み込まれてないのだから。

何とか髪を溶かして、化粧をして、スーツに着替えた。

コーヒーを落とす。今日は二人分だ。

シャワーを浴び終わった竹内君がバスタオル一枚で出て来た。
私は驚いて、目を逸らす。

「何だよ、昨日、もう見ただろ。」

「だって、昨日は昨日でしょ。」

「優香まさか、昨日のこともまた忘れたのか。」

「忘れてないよ。だから早く何か着てよ。」

「良かった、忘れられてなくて。」

竹内君はTシャツと短パンを着ると、私の淹れた
コーヒーを飲んだ。

「優香のコーヒーは格別だな。早く、毎日、これを飲めるようになりたいよ。」

「大袈裟だよ。ただのスーパーのコーヒーなのに。」

「違うよ、俺は優香が淹れるコーヒーがいいって
言ってるんだろ。やっぱり、ちょっと酔ってる優香が一番可愛いな。」

「今日の予定は?」

「あぁ、朝のうちにこっちで用事を済ませて、昼前には向こうに戻る予定。向こうで夕方から打ち合わせが入ってるから。」

なんだ、もう帰っちゃうんだ。
今日の夜はもう一緒に過ごせないんだ。

「優香、寂しい?」

「仕事だから仕方ないよね。」

「寂しい時は寂しいって言って。優香は俺の彼女
なんだから。」

今度はいつ会えるんだろう。
それも聞けない。

「いつでも会いに帰って来るから。それとも優香が週末にでも来てくれる?俺、街を案内するよ。」

「でも、これから仕事忙しくなりそう・・・。」

朝から泣きそうになる。竹内君の前だと、私の涙腺はすぐに崩壊してしまう。

「泣かないで。大丈夫だから。じゃあ、週末に帰ってくるから。」

竹内君が私を抱き締めてくれる。

「無理してない?」

「無理してないよ。俺が優香に会いたいだけ。」

「私も隼人に会いたい。」

「前言撤回だな。やっぱり、優香はいつでも可愛い。」

隼人に最後に熱いキスをされて、私達はマンションの前で別れた。

「今夜、電話するから。」と言って。
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