お願い、名前を呼んで。
日常は無常に過ぎて行く。
オフィスでは深刻度の違いはあるものの、毎日、
トラブルが発生しては、それを解決していく日々。

気付けば、もう金曜日の午後になっていた。
明日は劇場の下見もあるから、今日のうちに、
終わらせておきたい仕事も山積みだ。

そんな時、藤田さんが駆け寄って来た。
かなり深刻なトラブルが起こったんだろう。
藤田さんの顔を見て、重い気持ちになるけど、
最近はこれにも慣れて来た。

「今度はどうしたんですか?」

「竹内が倒れたらしい。」

「えっ。」

藤田さんの予想外の報告に、私の全身が震え始めた。

「野崎さん、大丈夫?」

「はい、それで容態は?原因は?」

「過労らしいんだけど、まだ詳しい容態は分からない。白井さんって女性が設計部に連絡をくれて。」

「最近の竹内はどうだった?疲れてる様子とか?」

「すみません、分かりません。最近、連絡取れてなくて。」

「そっか、喧嘩でもした?まぁ今は、そんな事言ってる場合じゃないけど。」

私は目の前が暗くなりそうなのを必死で踏み止まる。

「野崎さん、様子を見にいってくれない?」

「私がですか?でも、明日も劇場の下見もありますし、まだ仕事が残ってます。」

今、目の前の仕事を放り出す訳にはいかない。

「野崎さん、仕事も大事だし、君の責任感の強さも知ってるつもりだよ。だからこそ言うけど、時には、それより大切な事もあるんだよ。」

今すぐにでも竹内君の元に行きたい。
会いたい。

「仕事のことは僕達に任せて。野崎さんには信頼できるメンバーがいるでしょ。今の竹内には、野崎さんが誰よりも必要だと思うよ。」

「ありがとうございます。私、行って来ます。」

私は引き継ぎ書を準備しようと、再び、デスクに
向かった。

「引き継ぎはいらないよ。新幹線に乗ってから、
メールでもしてくれればいいから。大体のことは、いつもの報告で把握してるから。早く行って。」

「ありがとうございます。」

「あっ、竹内の病院は分かり次第、連絡するから、そっちも何か分かったら、連絡お願いね。」

私は藤田さんの声を背中で聞きながら、走り出していた。
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