お願い、名前を呼んで。
新幹線に飛び乗ると、握りしめていた携帯を確認する。
藤田さんからのメッセージが届いていた。
竹内君が運ばれた病院名と住所が書かれていた。

私は、新幹線に乗った事と仕事の引き継ぎについて、藤田さんにメッセージを送った。

するとすぐに、藤田さんから返信があった。

『実は、竹内の容態は大した事ないらしいです。
ただの寝不足だったみたいだから、心配しないで。駅にも竹内が迎えに行くからって。』

私は、狐に摘まれたみたいだ。
プライベート携帯も確認したけど、竹内君からの連絡は入ってなかった。

『ごめんね、心配させて。でも、倒れたのは本当だし、これぐらいしないと仕事優先の二人は会わないなぁと思って。それに、最近、竹内からの酔っ払い電話も掛かって来て、面倒だったしね。』

今は藤田さんのサプライズに感謝をする。
もうすぐ、彼のいる街に初めて行くんだ。

でも、二週間ぶりの再会で嬉しい反面、喧嘩のことや体調が良くない中でのサプライズなのも確かで、複雑だ。

しかも話すのも2週間ぶりだし。

「優香、こっち。」

改札を出るとすぐに竹内君が私に声を掛けた。
私は駆け寄る。

「迎えに来てくれて、ありがとう。でも、身体は大丈夫なの?」

「心配してくれた?」

「当たり前でしょ。心臓が止まるかと思った。藤田さんから『大したことない』って聞くまでは生きた心地がしなかった。」

「ごめんね、心配させて。でも、不謹慎だけど、
藤田さんから『優香が事務所を飛び出した。』って聞いて、すごく嬉しかったし、疲れなんて吹っ飛んだよ。」

「元気で良かった。」

私は安心から脚の力が抜けて、泣きながらその場にしゃがみ込みそうになる。
竹内君が、それを慌てて抱き止める。

「本当にごめん。だけど、倒れたのは嘘じゃないから。今週末こそ、優香に会いに帰ろうと思って、仕事頑張り過ぎた。それに、優香の声も聞いてなかったから、完全に俺、優香不足になってたから。」

私の涙は止まらない。

「歩ける?タクシーで俺の家に帰ってもいい?
流石に、医者にも安静にって言われたし、今日は
街の案内できないけど。」

「竹内君に会えたから、もういい。」

「隼人な。」

私達はタクシーで竹内君の家に向かう。
タクシーの、車窓から初めて訪れた街の景色が
広がる。
山と海に囲まれた街は、可愛い建物も並んでいて、とても素敵だった。

今、竹内君はこんな街で暮らしているんだな。
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