闇に堕ちる聖女 ―逢瀬は夢の中で―
望まぬ婚約
 豊かな地下資源を持つ国、『グルータ』、王都『スブムンド』。レスカーテは神官長の一人娘として定められし『聖女の証』を持って生を受けた。

「予定より少し早いが、お前は、レイ様のところに嫁ぐ事になった」

 父からの呼び出しに、あるいは、と、覚悟を決めていたレスカーテは、動揺せず頷いてみせた。

「はい、父上」

 魔王を封印する聖女として育てられたレスカーテは、共に『封印』をほどこす勇者の元に嫁ぐことが定められていた。

 魔王、トルトゥーラ。

 百年前に封印された、禍々しい存在。滅する事ができずに、力を弱らせ、封印が解ける時に、今度こそ滅ぼさねばならない敵。

 魔族を率い、戦い続けた最後の魔族となった魔王が、まもなく目覚めようとしている。

 何度も何度も夢に見たあの姿を、ついに目にする事ができるのだと思い、レスカーテは密かに興奮していた。

「早まった……とは、どうした事でしょう」

 素朴な娘の問いかけに、父は言葉を濁した。

 レスカーテはそれ以上尋ねる事ができなかった。
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