闇に堕ちる聖女 ―逢瀬は夢の中で―
 千年前に魔王を封じた勇者一族は、今は王宮騎士団長を務める家柄だった。若き当主レイは、金色の髪の優男風なのだが、武力において力が足りないという事も無く、王国を守る守護の騎士の長として、申し分の無い美丈夫であった。

 若く、美しく、家柄もよいレイだが、浮いた話は一つとしてなく、密かに貴族の令嬢達から自分こそ妻にと望まれる事も多くあったが、そうした縁談は全て断られてきた。

 レイとレスカーテが許嫁である事、その目的は国の秘事である。

 魔王を封印する為に命をかけなくてはならないレイにとって、恋人を作る事はできないが、それを公にする事もできず、そうした振る舞いがかえって令嬢達の思慕をかきたててもいた。

 レスカーテは、単身馬を駆って、レイの元を訪れた。レスカーテを神官長の娘として、尼僧のような慎ましやかな姿を想像していたレイの家の使用人達は、馬上のレスカーテのりりしい姿に驚かされた。

 背も高く、鍛えられた体躯に、漆黒の長い髪を背中で一つに束ねた姿は、女性らしい華奢なところを残しながらも、少年騎士のような趣があったからだ。

「レスカーテ様……で、いらっしゃいますか?」

 使用人の一人の初老の男が恐る恐るレスカーテを見上げるようにして尋ねた。

「馬上より失礼いたします、レスカーテでございます」

 そう言って微笑んだレスカーテは確かに若主人の未来の妻なのだろうと、使用人はその気品に圧倒された。
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