闇に堕ちる聖女 ―逢瀬は夢の中で―
「ふううううーーーーー」
案内された客間でレスカーテはベッドに体を投げ出した。今回の訪問は話をする事だけだった。実際の婚姻は儀式の準備含めてもう少し先になるはずだ。
しかし、聞きたい話を聞くことはできなかった。
早まった婚姻と、その理由。
許嫁同士の初会見の場で、レイは歯の浮くような言葉を繰り返した。
「お話には聞いておりました、本当に美しい方だ」
心から言っている風なのでなおの事性質が悪い。
レイがレスカーテを迎えたのは大きな絵の飾られた部屋だった。神殿にも同じような天井画がある。勇者が魔王を封じ込めた時の事を描いたもので、神殿にあったのものは魔王を封じた直後のもので、結晶に封じ込められた魔王が中心に描かれていた。
レスカーテは夢に見ていたのは天井画から想像を巡らせたものだと思っていた。けれど、行ったはずの無い宮殿の空気感や、瞳を開けた魔王の顔は絵には無いものだった。
陽の光を帯びたような金色の髪をしたレイと、夢に現れる黒髪の魔王トルトゥーラ。対象的な二人の容貌は不思議とどこか似ているところがあった。
レスカーテ自身が好ましいと思う顔なのだろうか、そう考えると頬が赤くなった。
夫となる相手に対して好ましい感情がある事は悪い事ではないはずだ。己を肯定するようにレスカーテはぶんぶんとかぶりを振る。
その時だった。
がしゃーーーーーーーん!!
聖堂よりも静かだと思っていた邸内に響いたのは何か大きく重いものが倒れたような音だった。
あわててレスカーテが客間を出ると、廊下は変わらず静まり返っているようにも思える。しかし、あわただしくぱたぱたと走る音。ざわめく人の声がするのがわかった。
明かりの方へ、声のする方へ向かって歩いて行くと、扉がわずかに開き、中から明かりがこぼれている。
レスカーテが隙間から中を覗き見ると、いかにも女性らしい調度の明るい装飾の中に、うなされたようにうめき声をあげる誰かと、それを押さえつける看護婦のような女性たちの声が続いていた。
押さえつける看護婦達は皆、叫ぶ声の主をいたわるように、しかしベッドから動かないようしっかりと押さえつけているようにしている様子が伺えた。
「うーーーーーッ!! うーーーーーーッ!!」
うめき声の主は言葉を発する事ができないのではなく、口をふさぐように何かをかまされているようだった。
声の様子からいって女性、しかも若い女のようだと気づいたレスカーテは無作法を承知で扉を開け、中に入った。
「いったい何をしているのです!!」
思い切ってレスカーテが声を荒らげると、ベッドの上にいた看護婦達が驚いて顔をあげた。
「……ッ!!」
わずかに戒めの手がゆるんだのか、取り押さえられていた者が状態を起こした。
「あなたは……」
思わずレスカーテは息を飲んだ。
ふわふわの金色の巻毛、なめらかな白い肌、レスカーテよりいくらか歳下だろうか、美しい娘だった。少女というには肉感的だが、かといって大人にも見えない。
聖女という言葉から思い起こされる女とはこんな姿をとるのではないだろうか。そう思わずにはいられないほどに、美しく、清らかで、けれどどこか危うく、なんとも言い難い色香を漂わせた娘だった。
「あなたは、だあれ?」
美しい娘は高く澄んだよい声で尋ねた。まっすぐにレスカーテを見つめている。
「私は、レスカーテ……」
「あなたが!!」
娘は先程まで人二人がかりが押さえつけていたとは思えないほどに落ち着いた様子でレスカーテに微笑んだ。
案内された客間でレスカーテはベッドに体を投げ出した。今回の訪問は話をする事だけだった。実際の婚姻は儀式の準備含めてもう少し先になるはずだ。
しかし、聞きたい話を聞くことはできなかった。
早まった婚姻と、その理由。
許嫁同士の初会見の場で、レイは歯の浮くような言葉を繰り返した。
「お話には聞いておりました、本当に美しい方だ」
心から言っている風なのでなおの事性質が悪い。
レイがレスカーテを迎えたのは大きな絵の飾られた部屋だった。神殿にも同じような天井画がある。勇者が魔王を封じ込めた時の事を描いたもので、神殿にあったのものは魔王を封じた直後のもので、結晶に封じ込められた魔王が中心に描かれていた。
レスカーテは夢に見ていたのは天井画から想像を巡らせたものだと思っていた。けれど、行ったはずの無い宮殿の空気感や、瞳を開けた魔王の顔は絵には無いものだった。
陽の光を帯びたような金色の髪をしたレイと、夢に現れる黒髪の魔王トルトゥーラ。対象的な二人の容貌は不思議とどこか似ているところがあった。
レスカーテ自身が好ましいと思う顔なのだろうか、そう考えると頬が赤くなった。
夫となる相手に対して好ましい感情がある事は悪い事ではないはずだ。己を肯定するようにレスカーテはぶんぶんとかぶりを振る。
その時だった。
がしゃーーーーーーーん!!
聖堂よりも静かだと思っていた邸内に響いたのは何か大きく重いものが倒れたような音だった。
あわててレスカーテが客間を出ると、廊下は変わらず静まり返っているようにも思える。しかし、あわただしくぱたぱたと走る音。ざわめく人の声がするのがわかった。
明かりの方へ、声のする方へ向かって歩いて行くと、扉がわずかに開き、中から明かりがこぼれている。
レスカーテが隙間から中を覗き見ると、いかにも女性らしい調度の明るい装飾の中に、うなされたようにうめき声をあげる誰かと、それを押さえつける看護婦のような女性たちの声が続いていた。
押さえつける看護婦達は皆、叫ぶ声の主をいたわるように、しかしベッドから動かないようしっかりと押さえつけているようにしている様子が伺えた。
「うーーーーーッ!! うーーーーーーッ!!」
うめき声の主は言葉を発する事ができないのではなく、口をふさぐように何かをかまされているようだった。
声の様子からいって女性、しかも若い女のようだと気づいたレスカーテは無作法を承知で扉を開け、中に入った。
「いったい何をしているのです!!」
思い切ってレスカーテが声を荒らげると、ベッドの上にいた看護婦達が驚いて顔をあげた。
「……ッ!!」
わずかに戒めの手がゆるんだのか、取り押さえられていた者が状態を起こした。
「あなたは……」
思わずレスカーテは息を飲んだ。
ふわふわの金色の巻毛、なめらかな白い肌、レスカーテよりいくらか歳下だろうか、美しい娘だった。少女というには肉感的だが、かといって大人にも見えない。
聖女という言葉から思い起こされる女とはこんな姿をとるのではないだろうか。そう思わずにはいられないほどに、美しく、清らかで、けれどどこか危うく、なんとも言い難い色香を漂わせた娘だった。
「あなたは、だあれ?」
美しい娘は高く澄んだよい声で尋ねた。まっすぐにレスカーテを見つめている。
「私は、レスカーテ……」
「あなたが!!」
娘は先程まで人二人がかりが押さえつけていたとは思えないほどに落ち着いた様子でレスカーテに微笑んだ。