闇に堕ちる聖女 ―逢瀬は夢の中で―
夢の中で
ああ、これはいつもの夢だ。
と、レスカーテは夢の中で考えた。意識がいつもよりはっきりしていて、夢だというのに、自我のようなものがある。
幼い頃から何度も見続けた宮殿を進む。
けれど、そこから先がいつもと違っていた。
誰かの声がする。
うめくような、押し殺したような。声を上げたいがはれず、漏れ出る声をこらえるような、それは女の声だった。
一歩、また一歩と進むたびに当然ながら大きくなっている。
ぱっと視界が開けて、常ならば魔王が封じ込められているはずの結晶の玉座とところにたどり着くと。
レスカーテの視界に入った姿は魔王トルトゥーラだけではなかった。
トルトゥーラを戒める結晶は無く、玉座に座り、膝の上には裸体の女が居るのだ。波打つ豊かな金色の髪は、出会ったばかりのメーディカだった。
透けるような白い肌に、豊かな乳房。レスカーテは違和感の正体に気づいた。整った顔立ち、聖女然としたメーディカに漂う危うさと虚ろさの正体は、この身体にあったのか。一糸まとわぬ姿になって始めて、メーディカのもつ女としての存在の確かさを感じた。
けれどこれは夢の中のはずだ。見たことの無いはずのメーディカの裸体を、なぜここまで克明に思い描けているのだろう。
それは魔王トルトゥーラについても同様だ、直接対面した事は一度もない、絵画でしか見たことのないはずの魔王をなぜここまではっきりと夢に見る事ができるのか。
魔王とメーディカは、レスカーテに見せつけるように身体を重ねている。こんなもの見たくは無いと思うのに、目を逸らす事ができない。
いやだ!
と、夢の中で目をつむると、反して目が覚めた。
慣れない寝台のせいか、レスカーテは不快さで目覚めた。
額から汗がつたい落ちるのがわかった。
落下したかのような錯覚。そのせいか鼓動が早くなっていく。夢だと思っていたし実際夢だった。けれどこの身体の反応は、実体をともなっているかのようだった。
レスカーテは起き上がって、大きく脈動する胸元をおさえた。
外はまだ暗く、眠りが浅かったのだろうとベッドを抜け出し、騒ぎのあったメーディカの部屋の方へ廊下を進んでいく。静まり返っている中で、ひたひたとした足音だけがやけに響いて耳につく。
扉の前まで来たが、時間を考えて黙って開ける事はできず、そっと扉に手を置いてみた。特別意味は無いはずだったが、扉は驚くほど冷たかった。
嫌な予感がしてレスカーテが扉を開けると、鍵はかかっていなかった。
メーディカを見張っているであろう二人の看護婦は眠り込んでいた。
そして、メーディカが眠っているはずの寝台にメーディカの姿はなく、窓は開けたままになっていた。
そのままつかつかと部屋に入り、窓の外のバルコニーのところまで出ると、梯子替りのカーテンが縛り付けられていた。
看護婦に何かしら服用させて抜けだしたのか、メーディカが何を目的にこのような事をするのか、レスカーテには理解できなかった。
レスカーテは眠っている看護婦達を叩き起こして現状を知らせた。二人の看護婦は最初少し寝ぼけていたが、メーディカの不在に気づくとおおいに狼狽えた。
「そんな、お嬢様……ッ」
「こんな無茶をして、もしお子に……」
二人の看護婦のうちの一人が思わず言いかけて口をつぐむ。
だがレスカーテは聞いた。『子』と。
なるほど、医師が逃げるようにして立ち去ったのはそのせいか、とも思った。
と、レスカーテは夢の中で考えた。意識がいつもよりはっきりしていて、夢だというのに、自我のようなものがある。
幼い頃から何度も見続けた宮殿を進む。
けれど、そこから先がいつもと違っていた。
誰かの声がする。
うめくような、押し殺したような。声を上げたいがはれず、漏れ出る声をこらえるような、それは女の声だった。
一歩、また一歩と進むたびに当然ながら大きくなっている。
ぱっと視界が開けて、常ならば魔王が封じ込められているはずの結晶の玉座とところにたどり着くと。
レスカーテの視界に入った姿は魔王トルトゥーラだけではなかった。
トルトゥーラを戒める結晶は無く、玉座に座り、膝の上には裸体の女が居るのだ。波打つ豊かな金色の髪は、出会ったばかりのメーディカだった。
透けるような白い肌に、豊かな乳房。レスカーテは違和感の正体に気づいた。整った顔立ち、聖女然としたメーディカに漂う危うさと虚ろさの正体は、この身体にあったのか。一糸まとわぬ姿になって始めて、メーディカのもつ女としての存在の確かさを感じた。
けれどこれは夢の中のはずだ。見たことの無いはずのメーディカの裸体を、なぜここまで克明に思い描けているのだろう。
それは魔王トルトゥーラについても同様だ、直接対面した事は一度もない、絵画でしか見たことのないはずの魔王をなぜここまではっきりと夢に見る事ができるのか。
魔王とメーディカは、レスカーテに見せつけるように身体を重ねている。こんなもの見たくは無いと思うのに、目を逸らす事ができない。
いやだ!
と、夢の中で目をつむると、反して目が覚めた。
慣れない寝台のせいか、レスカーテは不快さで目覚めた。
額から汗がつたい落ちるのがわかった。
落下したかのような錯覚。そのせいか鼓動が早くなっていく。夢だと思っていたし実際夢だった。けれどこの身体の反応は、実体をともなっているかのようだった。
レスカーテは起き上がって、大きく脈動する胸元をおさえた。
外はまだ暗く、眠りが浅かったのだろうとベッドを抜け出し、騒ぎのあったメーディカの部屋の方へ廊下を進んでいく。静まり返っている中で、ひたひたとした足音だけがやけに響いて耳につく。
扉の前まで来たが、時間を考えて黙って開ける事はできず、そっと扉に手を置いてみた。特別意味は無いはずだったが、扉は驚くほど冷たかった。
嫌な予感がしてレスカーテが扉を開けると、鍵はかかっていなかった。
メーディカを見張っているであろう二人の看護婦は眠り込んでいた。
そして、メーディカが眠っているはずの寝台にメーディカの姿はなく、窓は開けたままになっていた。
そのままつかつかと部屋に入り、窓の外のバルコニーのところまで出ると、梯子替りのカーテンが縛り付けられていた。
看護婦に何かしら服用させて抜けだしたのか、メーディカが何を目的にこのような事をするのか、レスカーテには理解できなかった。
レスカーテは眠っている看護婦達を叩き起こして現状を知らせた。二人の看護婦は最初少し寝ぼけていたが、メーディカの不在に気づくとおおいに狼狽えた。
「そんな、お嬢様……ッ」
「こんな無茶をして、もしお子に……」
二人の看護婦のうちの一人が思わず言いかけて口をつぐむ。
だがレスカーテは聞いた。『子』と。
なるほど、医師が逃げるようにして立ち去ったのはそのせいか、とも思った。