夏の花火があがる頃
 家に帰ってすぐ、萌から電話がかかってきた。
 
 疲れていたが、ずっとメッセージの返信をしていなかったことを思い出し電話を受ける。

「どうした?」

「なんで、連絡くれないの?」

「ごめん。仕事が忙しかった」

「心配した」

「うん。ごめん」

「最近、悠也謝ってばっかりだよね」

「誰かさんが怒ってるから」

 ベッドに腰掛けて、機嫌の悪い萌に言葉を伝える。

 優しい声を出すように心がけた。

 萌の性格上、こちらが機嫌の悪い声を出せば出すほど、ヒートアップする。

 残業で疲れている今、彼女を怒らせて電話が長引くのだけは避けたかった。

「別に怒ってないよ」

 戦略通り、彼女は不機嫌な声を残しながらも機嫌の悪さを否定した。

 付き合いが長い分、扱いには困っていない。

「そうなの?」


「ずるいよ。悠也」

 泣きそうな声だった。

 彼女は一体悠也のどこを好きなのだろうと不思議に思うことがある。

 自分が萌の立場だったら、きっともうとっくに諦めている。

「好きだよ。嘘じゃない」

「私も好き……悠也じゃないとダメなの」

「うん。ありがとう。今夜は遅いし寝よう。明日は萌も朝から仕事だろ?」

「そうだけど……」

「また明日連絡するよ」

「いつもそればっかり」

「おやすみ」

「おやすみ」

 優しく言葉を吐いて、電話を切った。

 深いため息をつく。

 気持ちは限界だった。
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