夏の花火があがる頃
慎吾とめぐみが交際をスタートしてから、悠也は二人と一緒にいる時間は確実に減っていた。
慎吾はめぐみのことをとても大切にしているようで、二人はいつも楽しそうに笑っていた。
親友が幸せであるならそれでいいと思っていたはずなのに、なぜだか面白くない自分がいた。
当時の萌との付き合いは非常にあっさりした関係で、月に二回から三回デートをするだけだった。
フリーの時とそんなに変わらない生活の中で、新しくバイトを始めた。
大学を卒業するとおそらく自由な時間がなくなる。
その前に世界各国へ旅行が行きたかった。
つまらない毎日だ。
そんなことを考えながら校内を歩いていると、突然背中をバシンと叩かれた。
「いってえな」
「何辛気臭い顔してんのよ、悠也」
めぐみは見かけによらず、サバサバとした性格だった。
そこも惹かれた理由の一つだ。
ただの女の子ちゃんはもう散々付き合ってきたので飽きていた。
自分の意見を持っていて、知的好奇心を刺激してくれて、変に女を出してきたりしない。
「別に」
「慎吾が心配してたよ。理由は言ってくれなかったけど、悠也と今まで通り話ができないかもって」
「なんでだよ。変わらんだろ」
「確かにちょっと変かもね」
「余計なお世話だよ。俺はあいつの方が心配。めぐみ、ちゃんと面倒見てやれよな」
「まあ……うん」
「なんだよ、歯切れ悪いな」
めぐみが悠也に気があるのではないかと思う瞬間は、なくはなかった。
だが、決して彼女の気持ちを受け入れる訳にはいかないと思っていた。
親友の大事な恋人を、好きな人を掠め取るような真似だけはしたくなかった。
「悠也のバーカ。スケコマシ」
「表現が古いわ」
「ところでさ。今年の夏休みに、三人で花火大会に行かない?久々に三人で出かけようよ」
「花火大会とか完全にカップルのイベントだろ。俺、邪魔じゃない?」
「邪魔だね」
「誘っておいて、ひどい言い方だな」
「でも、おいでよ。みんなで遊びたい」
「バイトが入ってなければな」
バイトと彼女とデートという文言は、二人から遠ざかるための都合のいい言葉だった。
「この後、慎吾と会うんだけど、一緒に来る?」
「いや、俺はゼミの教授から呼ばれてるから」
「そっか。じゃあね」
「ああ」
走って去って行くめぐみの後ろ姿を、悠也はずっと見つめていた。
教授には呼ばれてすらいなかった。