夏の花火があがる頃

「最近、篠原さん艶っぽいよね。彼氏でもできた?」
 
 宮舘の言葉にドキッとして、めぐみは慌てて「そんなんじゃないですよ」と弁解するも、その行為自体が肯定しているようなものだった。

「あー。彼氏できたな」

 ニヤニヤと笑う宮舘に、めぐみは顔が真っ赤になっていることに気がついていなかった。

「違いますって」

「わかりやす過ぎ。でもちょっと安心したな。篠原さんそういう浮ついた印象なかったからさ。ちょっと心配してたのよね。まあ、余計なお節介なんだけどさ」

「すいません。ご心配かけているようで」

「いや、全然。勝手に心配してるだけだから。仕事ばっかりしていても気が滅入っちゃう時ってあるじゃない。私は、恋愛することも仕事をする上で必要なことだと思っているのよね」

「なんか、宮舘さんが言うと説得力が違いますよね」

「まあ、愛の伝道師だからね。なんちゃって」

 冗談めかして言う宮舘に、めぐみはクスリと笑った。

 入社して来た時のめぐみの顔は真っ青で、仕事に夢中になるというよりも、現実を忘れてのめり込んでいる姿に非常に心配していたと彼女は教えてくれた。

「で、FURADAの仕事はもう終わり?」

「今日、オープンセレモニーを実施して終了です」

「じゃあ、手持ちの仕事は田園調布のご夫婦のだけか」

「そんな感じです」

「じゃあさ、これやってみない?」

 宮舘は手に持っていたクリアファイルから一枚の紙を取り出して、めぐみに渡した。

「住まいのインテリアコンテスト?」

「そうそう。仕事をがむしゃらに数多くこなすのも良い経験だと思うけど、こういうのにもチャレンジするのは、仕事の幅が広がると思うのよね。篠原さんの能力アップにもつながると思うから、ぜひ受けてみてほしい」

「ですが、これにチャレンジしている間、みなさんにご迷惑をかけるんじゃ……」

 めぐみが所属している会社は、仕事の発注が少ない方ではない。

 紙に記載されているコンテストのスケジュールを見る限り、ほとんど新しい仕事が出来なくなるのは明白だった。

 コンテストに参加しても、仕事の負担が他の社員に行ってしまっては元も子もない。

「いやいや、逆にこういうの受賞してくれた方が、うちの事務所としては有り難いんだって。それに、そんなに仕事を抱えてない今がチャンスよ。受賞するかしないかは、篠原さんの努力と時の運になるから、保証はできないけど挑戦してみなさいな。資格だって、どんどん会社のお金使ってチャレンジして。これは上司命令よ」

 めぐみのキャリアを心配して言ってくれているようだった。

 確かに、めぐみレベルのインテリアコーディネーターなど、世の中に掃いて捨てるほどいるだろう。

 FURADAの件は柏木が気に入ってくれたので、何とか仕事を手にすることができたが、これから独立をしたいと考えるとするならば、めぐみのこなした仕事の量はあまりにも少ない。

 何かハクのつくものを持て。

 宮舘の言っていることは間違いなかった。

 いつまでも他社のコンペに一生懸命出品するのではなく、篠原めぐみに作って欲しいとオファーが来るようにならないといけないのだ。

「やります」

 はっきりと答えると、宮舘は親指を立てて頷いた。
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