夏の花火があがる頃
 次の日、目が覚めたのはアラームが鳴る一時間前だった。」
 
 半乾きのまま寝たので、ショートカットの髪の毛は四方八方へと向いている。

 水でもう一度濡らし直した後、ドライヤーで乾かし、ヘアアイロンで整えた。

 朝食は昨日の残りでいいと、ニョッキと焼き野菜を冷蔵庫の中から取り出して、電子レンジで温める。

 その間、無糖ヨーグルトにバナナをカットしたものを器の中に入れて、上から少しだけメープルシロップをかけた。

 食事をしながら、Macのパソコンの電源にスイッチを入れて、自分の出した提案書を見直す。

 FURADAの店舗が入るビルは、東京駅の八重洲口から出てすぐのビルだ。

 オフィスビルといえども、中には高級なレストランも数多く入っており、ビルを使用している会社員の他にもたくさんの顧客が入ることになるだろう。

 めぐみはなるべく居心地の良い空間にしたかった。

 早く目覚めた時は、無理に二度寝をせず食事をして仕事に行くことにしている。
 
 食事を終えた後、食器を洗い、出かける準備をした。
 
代官山のオフィスに顔を出した後、そのまま八重洲に行って打ち合わせをするのが本日のスケジュールだ。

 歩きやすい靴で行かなくては、途中でくたびれてしまうかもしれない。

 そう思い、彼女は靴箱の中にヒールのある黒い靴をしまいって、ワインレッドのフラットシューズを取り出し履いた。

 めぐみの足は小さいよね。

 昔、誰だったか、めぐみに向けた言葉だった。

 その言葉を放った人物の顔を思い浮かべたところで、めぐみは考えるのをやめた。

「行ってきます」

 誰もいない空間に語りかけるように呟いて、彼女は部屋を後にした。
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