夏の花火があがる頃
 花火大会の誘いを断ってからしばらくして、慎吾から相談があると電話がかかってきた。

「めぐみのことなんだけどさ」

「どうしたんだよ」

 明るい声で対応する。一体二人の間に何があったのか、皆目見当もつかなかった。

「もしかしたら、俺たちもうだめかも」

「何弱気になってるんだよ。大丈夫か?」

 無性に苛立ちを覚えた。好きな女と付き合えているのに、何を悩む必要があるのか。

 その年の夏は、数年ぶりの猛暑だった。

「たぶん。めぐみは俺のこと嫌いなんだと思う」

「んなわけないだろ。あいつはお前を選んだんだ。自信持てよ」

「……悠也」

「なんだよ」

「めぐみ、お前のことが好きなんだぜ」

「……」

「知ってんだろ。悠也」

「知らねえよ。それに俺、彼女いるだろ」

「悠也だったら二股くらい簡単だろ」

「ふざけんなよ、慎吾」

 真剣な声色で言葉を発したことで、ようやく自分の言っていることに気がついたのか、慎吾は「ごめん」と小さな声で呟いた。

「めぐみはお前のことが好きだ。疑うなよ」

「……自信がない」

 今まで聞いたことがないような声だった。

 たった一人の女性にここまで溺れてしまうのか。

 そう考えたところで、自分も同じように彼女に溺れていることに気がつく。

 平静を保っているような顔をして、全く平静を保てていない。

「ちゃんと話し合えよ」

「わかってる……悠也、変なこと言ってごめんな」

 そう言って、電話が切れた。嫌な胸騒ぎがした。

 だが、深入りしたところで二人の関係がこじれるだけだ。悠也は傍観者でいる方が良いのだ。

 たとえ、どれだけ胸焦がれたとしても。
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