夏の花火があがる頃

「沢口さん」」
「……」

「沢口さん!」

「え、あ、ごめん。何?」

 耳元で声がしたので、顔を上げると、先日は泣きじゃくっていた飯塚が困ったような顔でこちらを見ていた。

「お電話です」

「ありがとう」

「いいえ」

 頭を下げて、電話を取る。

 取引先の会社から、合併のことで相談に乗って欲しいとのことだった。

 初めての吸収合併なので、どうにか世間の目を引いて利益が出るような形にしたいということらしい。

「すいません。ちょっと出てきます」

 荷物をまとめて席を立った。

「沢口さん。何か資料が必要だったら仰ってくださいね」

 飯塚が真剣な眼差しで言うので「まずは自分の仕事を徹底しなさい」と言葉を返した。

 先日、慰めたことですっかり懐かれてしまったようだ。

 ビルの一階に降りると、先日イベントを実施していたコーヒーショップFURADAにはたくさんの人が訪れていた。

「ここの店の内装いいよね」

「わかる。お洒落」

 若い女性客二人が、店内の内装や小物を商品と一緒に写真に収めている。

 これをめぐみが作り上げたのかと思うと、胸の中がざわめいた。

 昔も今も、彼女のことで身動きが取れなくなっている。

 昨日、無理にでも彼女を引き止めて昔の話を聞き出せばよかったのだろうか。

 自分の連絡先を渡したものの、彼女から結局連絡は来ていない。

 とりとめない会話すらままならない状態ではあるが、この感動を彼女に伝えられたらと思う。
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