夏の花火があがる頃
 帰宅する頃には、すっかりと夜がふけていた。

 初夏の生温い風が、駅の構内に吹き抜ける。
 
 この時期になると、心が沈む。

 本当は忘れてしまいたい記憶なのに、月日が夏に近づけば近づくほど、心の足枷がどんどん重くなる。

 ICカードの残金が少なくなっていたので、財布の中からお金を取り出してチャージしようとした瞬間、悠也の名刺がポロリと床に落ちた。

「あと、これ。なんかあったら連絡して」

 彼の言葉が頭の中にこだまする。

 あの真剣な眼差しを思い出すたびに、あの頃が蘇る。

 忘れないといけない。

 忘れることが、彼が幸せな人生を歩むためのせめてもの償いなのだ。

 この後に及んで、彼の人生に再び足を踏み入れる気にはなれない。


「……」

 めぐみはその名刺を駅構内のゴミ箱に投げ入れようとしたが、手を止めて再び財布の中にしまった。

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