夏の花火があがる頃
 次の日、遊園地で遊んでいたことが、まるで夢物語だったかのように、忙しい一日だった。
 
 忙しい日は考え事をしなくて済む。
 
 全ての記憶を捨てて、人生をやり直せる選択肢があるのであれば、きっとめぐみは柏木の提案に涙して「イエス」と答えていたはずだ。

「そろそろ休憩にしたら?」

 宮舘の声がして、驚き振り向く。

「え?」

「もう十四時だけど?相当集中してたから、声かけづらかったんだけど。そろそろ休んだ方がいいんじゃないかという上司判断」

「すいません……」

「謝ること何もしてないじゃない。休憩行っておいで」

「はい。あと少しやったら」

「今すぐ行くの」

「……はい」

 有無を言わせない宮舘の言葉に、渋々とめぐみは重い腰を上げた。

 暇な時間を作りたくない。

 そういったところで、いい仕事をするためには、適度な休憩時間も必要だと言われてしまう。

 作りかけの書類を上書き保存して、パソコンの電源をオフにした。

「なんかあった?」

 いつもと違うめぐみの態度を見て、宮舘は訝しげな表情を浮かべて言った。

「いえ、何もないですよ」

「なんか、抱え込みそうなタイプだからな。篠原さんって。コンペもやりながら通常業務はきつかった?」

「そんなことはないですよ。やりがい感じてます」

「ならいいんだけど。あんまり抱え込んだらダメよ。あなた人に頼らないタイプの人間だからね」

「……そうですか?」

「そうよ」

「ありがとうございます。でも大丈夫です」

 笑顔を作って、めぐみは一旦オフィスを後にした。

 いくら上司といえども、めぐみの私的な悩み事を業務中に吐き出すわけにはいかない。

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