夏の花火があがる頃
 食事には行かず、コーヒーだけ飲んで休憩時間を潰した。

 柏木から「昨日はありがとう」と連絡が入っていた。

 一緒に行く気があれば、連絡して欲しいと言っていたのに、結局めぐみが連絡しやすいように気を使わせてしまっている。

 逆に言えば、彼から連絡しなければ、めぐみからは連絡を取らないと思われてしまっているようだ。

 連絡をする気がないのではなく、連絡しようとすると、どんな言葉を送ったらいいのかと尻込みをしてしまうのだ。

 彼はめぐみに安心をくれるが、めぐみから柏木に安心を与えられていない。

 こんな関係を彼は望んでいるのだろうか。

 時計のアラームがなる。

 休憩時間を忘れないようにセットしていたものだった。

 音に驚いて、財布を落としてしまう。

 不用心なことに、中途半端に閉じていた財布の中身が飛び散る。

 その中から、一枚の名刺が出てきた。

「……」

 めぐみはその名刺をゆっくりと拾い上げる。

 沢口悠也と書かれた文字を眺めた。

 捨てられずにいた名刺。

 彼のプライベードの電話番号が、ボールペンで殴り書きされている。

「大丈夫ですか?お客様」

 店員の声で我に返った。

「あ、ええ。大丈夫です」

 慌てて、散らばった財布の中身をしまって、めぐみはコーヒーショップを後にした。

 自分は一体何をしようとしていたのか。

 悠也の声が聞きたいだなんて、どうかしている。
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