夏の花火があがる頃
 慎吾の家にいたのは、時間にしてみればわずか数十分だった。

 ひどく足取りが重い。

 慎吾の死が事故死ではなく、計画された自殺だったという事実は、悠也の気持ちをかき乱すのに十分な事実だった。

 ぼーっと歩いていると、実家とは反対の方向に向かっていたようで、駅前に出てしまった。

 浴衣を着た人々が、嬉々とした表情で歩いている。

 そこでようやく今日が例の花火大会の日であることを思い出した。

 突然、池袋にある自分のマンションに帰った方がいいような気がして、悠也は焦った。

 来るはずがない。

 そんなことわかりきったことだ。

 けれど彼女がいるような気がしたのだ。

 自宅のある目白駅から池袋駅までは山手線で一駅だ。

 あっという間に池袋駅に到着して、ホームに駆け下りる。

 浴衣を着ている人の数が増えた。

 カップルが、親子が、若者が友達同士で楽しそうに歩いている。

 幸せな瞬間をそれぞれが過ごしていて、自分のカバンの中に入っている日記がひどく重たく感じた。

 マンションの前に到着すると、一人の女性がしゃがみこんでいた。

 紛れもなく、めぐみだった。

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